昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2022/03/28

新型コロナの功罪

 新型コロナの影響で各声優のアフレコが分断されるようになったということは既にご説明した通りです。では、そういう状況になった時に、新人声優の学習機会の損失の他にどんな変化が起きたのか。

 以前は毎回全てのキャストが一堂に集まり、収録が終わるまで3、4時間同じ場を共にしていたわけですが、これが細切れになることで各声優も1人1時間程度の拘束で済むようになりました。そうなると、以前はひと枠最大5時間拘束なので、1日につき多くても2つの現場にしか立ち会えなかったところが、その気になれば5つ6つの現場に参加することができるようになったのです。

 この変化が声優のキャスティングの仕方に多大な影響を与えました。

 声優のキャスティングをする際、希望する声優のスケジュールが空いているかどうかが問題になります。多くの場合、第1候補から第3候補くらいまで決めておき、優先順位の高い人からお声掛けしているのですが、新型コロナ流行以前は、実力のある人気声優を希望してもなかなかオファーが通りませんでした。どの声優も物理的に1日最大2つの現場にしか参加できないのですから仕方がありません。

 ところが、新型コロナ流行後はどの声優も1日に5つ6つの現場に参加できるようになったことで、僕たちの「このスケジュールで収録できますか?」という希望も第2候補くらいの人でだいたい揃うようになりました。

 1話限りの重要なゲストキャラはもちろんのこと、たった一言二言の脇役でさえ知名度のある声優、技術力のある声優を希望通りに起用できるようになったのです。

失われた「業界全体で新人を育てる」という環境

 そうすると必然的に、新人声優の出番はなくなってしまいます。

 もちろん、以前からゲストキャラや脇役のキャスティングに関しては、実力のある人を希望していたのですが、スケジュールの都合で希望が通らない場合が多く、代わりにジュニア(ジュニアランクと呼ばれる新人声優)を起用したりしていました。

 新人のうちは、たった一言「こんにちは」という台詞だけでもこちらの希望通りには言えず、何度も録り直しをすることになります。実はこういった短い台詞の演技こそ、主役の演技よりも難しい場合があるのです。主役はたくさん喋りますし、台詞自体が何かの説明だったり意味を持っていたりするので、多少テンションがおかしかったり棒読みだったりしてもなんとか聞けるものになります。

 一方、一言二言だけの台詞は、そのシーンの状況に相応しいテンション、相応しい感情表現をピタッと演じてくれないとOKを出せません。ですから必然的に、多くの新人がキャリア初期の現場で苦戦することになります。

 新型コロナ以前の環境であれば、それも新人が成長するためには必要だろうということで、その場にいるベテランの人たちも黙ってリテイクされている様子を見て待っていましたし、収録が終わったら「こういう風に工夫するといいよ」とアドバイスをしてくれていました。業界全体で、新人を育てるという環境があったのです。

z