ロン いわゆる、悪い意味でのブロードウェイっぽさをなくし、もっとナチュラルに、話をするように歌ってほしい、うまく歌おうとしなくていい、と言いました。
自分たちの美意識を貫き通す
岡村 レオス・カラックスはお2人の大ファンだったそうですね。中学生の頃、スパークスのアルバムをレコード屋さんで万引きしたと告白されてましたが(笑)。
ロン レオスに初めて会ったのは10年前のカンヌでした。もちろん、彼のことはリスペクトしていたし、作品も大好きでした。『ボーイ・ミーツ・ガール』(83年)とか『ポンヌフの恋人』(91年)とか。あと、前作『ホーリー・モーターズ』(2012年)で「How Are You Getting Home ?」という僕らの曲が使われていたということもあったので話をして。
別に「監督してくれ」なんて言うつもりもなく、「こういうことをいま考えてる」と『アネット』のストーリーと20曲ぐらい入ったデモテープをロスに戻ってから送ったんです。何か感じ取ってくれたものがあったらしく、「ちょっと考えさせてくれ」と。しばらくしてからまた連絡があって「やろう」と。
ラッセル レオスにとっては9年ぶり、僕にとっては学生時代に自主制作映画を作って以来の(笑)、映画になりました。
岡村 半世紀以上にわたり、音楽業界の変遷をつぶさに見て、体感してきたと思うんです。グラムロック、パンクロック、ニューウェイヴ、いろんな音楽の季節を経験されて。でも、スパークスは一切妥協せず、コマーシャリズムに流されることもなく、自分たちの美意識を貫いて。
今回、『アネット』と同時期に、エドガー・ライト監督によるスパークスのドキュメンタリー『スパークス・ブラザーズ』も日本で公開されますが、それを観ると、ベックやビョークや、ミュージシャンはもちろん、俳優、映画監督、ありとあらゆる著名人がズラッと登場し、ファンだ、影響を受けたと、熱い思いを語っていて。
やっぱり、ミュージシャンズミュージシャンというかそういう存在だなと。それもひとえに、信念を曲げず貫き通してきたからだと思うんです。
ラッセル そう言ってもらえると本当に嬉しい。ポップスの歴史を見ると、ずっと残ってる人たちというのは自分のユニバースを作ってきた人たちなんです。そういった意味で、僕らも自分の世界を作ってきた。それは例えば、ロンが書く詞やメロディや、僕らのイメージだったり。良くも悪くも、ほかにはない自分たちだけの独特の世界を作ってきたと思うんです。
しかも、決してメジャーシーンから逸れることなく、かといって商業主義に流されることもなく、自分たちらしさをつないでこれた。そこはすごく誇りに思います。
※続きは発売中の『週刊文春WOMAN vol.13(2022年 春号)』にて掲載。
Sparks/1945年生まれの兄ロン・メイル(左・キーボード)と48年生まれの弟ラッセル・メイル(右・ボーカル)が70年に米ロサンゼルスで結成。『キモノ・マイ・ハウス』(74)や『No.1 イン・ヘブン』(79)で一世を風靡。低迷期を経て90年代後半に再び第一線に。キャリア50年で27枚のアルバム、359曲を発表。
おかむらやすゆき/1965年兵庫県生まれ。音楽家。86年デビュー。90年発表の4thアルバム『家庭教師』が初のアナログレコードで発売中。6月20日より「岡村靖幸 2022 EARLY SUMMERツアー 美貌の彼方」を開催予定。
text:Izumi Karashima
photographs:Anna Webber, Hiroki Nishioka, Takuya Sugiyama, Tomosuke Imai
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2022春号
2022年3月22日 発売
定価550円(税込)