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 例えば是枝さんの『しかし…福祉切り捨ての時代に』(1991)。水俣病訴訟の国側責任者だった環境庁のエリート官僚の自殺を取材した社会告発モノなんですが、カポーティの『冷血』のような手法を使っていて、エンターテインメントとしても面白い。こんな作品を撮れたらと憧れました。

 ただフジに入社したのは偶然で、NHK、TBS、父と関係の強かったテレビ朝日と全部落ち、フジしか受からなかった(笑)。

大島さん監督作品 『香川1区』 2021年衆議院選挙。全国最注目の香川1区で50歳になった小川淳也は“香川のメディア王”こと自民党の平井卓也に挑む。初代デジタル大臣の平井には次々にスキャンダルが発覚。日本維新の会の町川順子の緊急参戦。混沌とする中、有権者が求めたものは――。全国公開中 ©ネツゲン
大島さん監督作品『なぜ君は総理大臣になれないのか』2019年の国会で統計不正を質し、「統計王子」と注目を集めた衆議院議員・小川淳也。大島監督が彼と初めて出会ったのは、地盤・看板・カバンなしで初出馬した32歳の時だった。無私な姿勢、理想の政策を語る説明能力に惹かれた大島は17年間カメラを回し続ける。 ©ネツゲン

グリコ・森永事件が起きて、毎日報道陣に詰め寄られ…

信友 私は、学生時代は全然ドキュメンタリーに興味がなくて。文章を書く仕事がしたかったんです。でも男女雇用機会均等法の前で、大手マスコミの求人は「男子若干名」。そこでコピーライター志望に転じて、女子の求人があった森永製菓の宣伝部に入社したのが1984年4月。そして9月にグリコ・森永事件が起きたんです。

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 毎日会社の前で報道陣に「どうですか」と詰め寄られ、気の利いたコメントを言わないと帰してもらえない。マスコミの暴力が怖かったんですが、一人だけ新聞記者のお姉さんが私に寄り添って話を聞いてくれて、事件後に初めて泣けたんです。

「広島から4年も仕送りしてもらったのに、こんなことになっちゃって親不孝だ」と泣きながら話したら、何も問題は解決してないのに気が楽になった。何だろう、これはと。そこから報道やドキュメンタリーに興味を持つようになりました。

※続きは発売中の『週刊文春WOMAN vol.13(2022年 春号)』にて掲載。

のぶともなおこ/1961年広島県生まれ。東京大学文学部卒。森永製菓を経て、テレビ番組制作の道へ。2009年、自身の闘病を記録した『おっぱいと東京タワー~私の乳がん日記』でニューヨークフェスティバル銀賞を受賞。18年の長編デビュー作『ぼけますから、よろしくお願いします。』で文化庁映画賞など多数受賞。
 

おおしまあらた/1969年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジテレビでドキュメンタリー番組のディレクターを務めた後、99年フリーに。2009年、映像制作会社ネツゲンを設立。20年、『なぜ君は総理大臣になれないのか』でキネマ旬報文化映画ベスト・テン第1位など多数受賞。父は映画監督の大島渚、母は俳優の小山明子。

text:Ayako Ishizu
photographs:Wataru Sato