凶行に走りやすい不法残留者、不法就労者
インターネットの中国情報サイトでは、日本の外国人登録者数は約208万人、うち正規滞在者の中国人は最多の約46万人、不法滞在者は約10万人いると推測されていた。入国管理局が発表した数は氷山の一角にすぎず、実感としては中国情報サイトの方が正しいと思えたほど、当時は不法滞在者が社会問題化していたのだ。
いずれにしろ、強制送還された中国人は、一様にこう語ったという。
「不法就労は仕事がきついが収入が少ない。警察による職務質問や入管の臨検にも警戒しなければならないため、毎日とても苦しかった」
多くの不法残留者を逮捕してきた元刑事Bもこう推測する。
「不法残留者、不法就労者は、立場上、仕事についても不満や不安が多く、その生活から抜けだすため犯罪に手を出す確率が多くなる。絶えず警察に警戒し、おびえて生活しているため、ちょっとしたトラブルでも精神的に追い詰められ、凶行に走りやすい」
自治体も入国管理局も警察も、その所在すらわからず、生活状況を把握することもできない数万人規模の外国人不法滞在者。自民・民主両政権が推し進めていた「他民族共生社会」は、バラ色と言えなくなっていたのだ。
中国に帰れば死刑、日本にとどまれば短い刑期
その後、Xは蒲田署管内の交番に「人と喧嘩しました」と出頭してきた。タクシーで逃げた後、蒲田に住んでいた親戚に「人を刺した」と告白したところ、自首を勧められたという。
2000年を過ぎたころから、中国人犯罪者は、故郷に逃げ帰るより自首してくるようになった。その背景について、元刑事Bはこう説明する。
「中国に代理で処罰を依頼するようになったからだ。以前は中国に犯罪者の手配書を通知しても、公安などはほとんど動かず、なかなか協力してもらえなかった。しかし、それではいけないということで、捜査協力の体制ができ上がった。
今では日本で殺人を犯し、中国で捕まると死刑になる。中国は日本ほど詳細な捜査はせず、裁判で判決を下してしまう。犯罪者の言い分など聞き入れはしない。殺人で逮捕されたら死刑が待っているだけ。刑務所での待遇は最悪だ。
日本なら法を犯しても死刑になることもなく、刑期も半分か3分の2ほどで仮釈放される場合が多い。仮釈放されれば強制送還される。だからこそ、彼らは自首してくる。甘く見られていたんだ」