遺体の引き取りで来日したはずの外国人家族が、入国後に逃走し行方不明になるという事案が発生したのは2000年代のことだ。家族の遺体を引き取りもせず逃走するという、にわかに信じがたい事態は、外国人家族を招聘する場合の盲点を突かれたものだった。
逃走した中国人が川に入って溺死
ことの発端は、東京都内のある街道で、所轄の警察官が白いワゴン車を停止させたことに始まる。周辺地域で外国人の不法就労の情報があったらしい。ピンときた警察官は、運転席に近づくと窓を開けるよう指示し、顔を出した運転手に免許証の提示を求め、職質しようとした。
突然、後部座席に乗っていた男2人がドアを開け、道路に飛び出した。警察官が慌てて追いかけようとしたが、2人は後ろからきた別の車に飛び乗ったという。車はそのまま男たちを乗せて逃走。逃げるものは追いかけるのが警察だ。都内を走る街道はいつの時間も車が多い。サイレンを鳴らし追尾するパトカーを振り切れるはずもなかった。
逃走車をようやく停車させ、警察官が車に近づいたその時、今度は車のドアが一斉に開いた。男4人が車から飛び出し、バラバラの方向に走り出す。そのうちの一人が、警察官が止める間もなく傍らを流れる川に勢いよく飛びこんだ。
当時、川の流れは早く、男はあっという間に流れに呑み込まれ、川の中に沈んでいった。発見された時は、足だけがぽこっと水面に浮いていたという。彼は不法残留の中国人だった。
アジア圏からが多い不法残留者
不法残留者がもっとも増加していた1990年代は、その数が30万人近く、2000年代の事件当時でも20万人を越えていた。減少しているとはいえ、令和3年1月1日現在の不法残留者数は8万2868人になる。国別ではベトナム、韓国、中国が多く、今でも上位10位まではアジア圏の国々の名前が並ぶ。不法残留は入管法違反になり、刑事処分としての罰則は3年以下の懲役もしくは禁錮刑または300万円以下の罰金、行政処分として退去強制(強制送還や国外退去処分)が行われる。
車から逃げた男らは全員、不法残留・不法就労の中国人。亡くなった男性は古くなったビザを所持しており、身元はすぐに判明。人物特定と遺体引き取りのため、警視庁は中国から家族を呼ぶことにした。このような場合、所轄の警察署長が保証人となり、現地の領事官にその旨を連絡してビザを発行してもらい、家族を招聘することになるという。