ロシアによるウクライナ侵攻が開始されてから1ヶ月が経った。いまだ停戦への道筋は描けず、戦いは長期化しつつある。ロシア軍からの爆撃は今も続き、無抵抗の多くの市民に被害がおよんでいるが、国民の士気は高い。
ウクライナでは国民総動員令により原則として18歳~60歳の男性は出国が禁止され、自国の自由を守るために「ウクライナに栄光を」の掛け声のもと、武器を手に必死の抵抗をみせている。
酒類の販売が禁止となれば皆でそれを守り、車が必要なら自家用車を軍に提供する。国が徴兵を呼びかければ、多くの若者が手をあげる――。戦いはまさに国民総動員だ。
だが、国民の中には戦いを望まず国からの徴兵にも応じない人たちもいるという。「文春オンライン」はウクライナ在住の邦人・山本幸一さん(50代・仮名)に現在の情勢について話を聞いた。
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難民として一度ウクライナを出てしまうとなかなか帰れなくなる
2000年にキエフに移住した山本さんは、現地でウクライナ人女性と結婚し、海外との文化交流に関わる仕事をしていた。ロシアからの侵攻がはじまった2月24日、仕事でキエフを離れドニプロ市にいた山本さんは、キエフに帰ることができず、家族と離れてしまったという。
キエフの自宅周辺ではロシア軍による爆撃が続き、山本さんの家族はなかなか身動きがとれずにいたが、3月9日に意を決して街を脱出。20時間かけ西部の街・リヴィウで山本さんと合流した。
――ロシアの侵攻から1ヶ月たちました。今はどちらにいらっしゃいますか?
山本 妻と再会できたので、今はリヴィウの南のポーランド国境ちかくにあるトゥルスカベツという街の知人の家にいます。こちらはまだ攻撃はありません。一度は出国も考えたのですが、難民申請が受理されて一度ウクライナを出てしまうと、今度はなかなか帰れなくなるんです。キエフには自宅もありますし、妻の両親は今もキエフに残っている。なので、戦況をみながら今はまだ国内に残ろうと考えています。
――国境付近では、誘拐や人身売買が起きているという話もあります。
山本 国境を越えてポーランドで難民施設に行くと、突然正体のわからない人たちが寄ってきて、子どもに声をかけては連れて行く。そういうことが起きているというのはこちらのニュースでも聞いています。
誘拐事件に加えて、臓器売買の噂もあり、政府のテレグラム等でも注意喚起がされています。これから難民として外国に行く方たちに「こういうことがあるので危ないですよ」というメッセージが届いたり、ポーランド側でサポートする方たちもパネルみたいなものを出して「誘拐などに注意してください」と呼びかけていると報道でもやっています。
あとは性犯罪ですね。女性が危険な目にあったニュースも目にしました、ポーランドで男が難民の女性に「この部屋が空いていますよ」と接触してきて危険な目にあったとか……。そういうこともあって疑心暗鬼になっている人も多いと感じています。