戦う集団は空気を読めなくても、和を乱してもいい
しかしそれはただの現実逃避であり、自分の心にウソをついているだけだと気づいた。開幕戦の大逆転負けとか、本拠地開幕シリーズ3タテとか、新守護神ケラーの防御率が33.75だとか、結果に対して怒りをぶつけているだけではない(それがあるのも否定しない)。それより、快調にバンバン打って点を取っていたのに、油断したのか疲れたのか、そのうちだんだん潮が引くように下降して、やがて力みまくったり、萎縮したりして、からっきし打てなくなると反撃され、最後はまくられて負ける。それが繰り返されるのがイヤなのだ。
「うわ優勝してまう!」と浮かれるだけ浮かれて、「だ、大丈夫だ。まだまだ……」と顔を引きつらせながら笑顔を作って、内心では不安でいっぱいになって、最終的に悔し涙を流す……あんなのはもうイヤなのだ。もちろん選手やコーチや矢野監督のほうがその気持ちは強いに決まっている。でも、ただのファンだって、本当に心の底からそう思っている。
私が気になっているのは、選手たちの仲の良さだ。チームが発信する情報からも、まとまりの良さ、団結力が伝わってくる。しかし、それが甘さになり、勝負弱さになりはしないかと危惧する。仲の良さも過ぎれば、慰め合って、傷をなめ合う関係性になる。それよりも、時に「チームの和」を乱してでも問題点を指摘したり、場の空気を読まずに自分の感情に素直になったりできる関係性のほうが戦う集団には向いている。
ぶっ壊した上で監督のために力を結集できるチームに
まるで担任の教師(科目は体育)のような矢野監督が目指すチームは、「和を以て貴しとなす」に見える。最近の若い人は争いを好まず、「みんなで一緒に」を大切にすると聞く。しかし、本当にその延長線上に優勝はあるのか。
昨年、阪神タイガースを「優勝未遂」まで引き上げたのは、間違いなく佐藤輝・中野・伊藤将のルーキートリオだった。阪神タイガースの伝統も、矢野監督のキャラも知らぬ彼らは、良い意味で阪神らしくなかった。
三振かホームランかを地で行き、堂々とZポーズを決めた佐藤輝、萎縮して足が止まるチームの中で盗塁を重ねて果敢なダイビングキャッチで鼓舞した中野、連敗時に登板すればことごとく快投してチームを救った伊藤将。彼らの新人らしからぬ堂々たる態度には、「チームの和」より「己の輝き」を優先するエゴすら垣間見えた。それがどこかひ弱さを感じさせる「優等生的チーム」矢野タイガースを変えた。私にはそう見えた。
彼らが2年目トリオとなった今年、優等生に取り込まれてほしくない。染まることなく、もっと弾けて、矢野タイガースをぶっ壊してほしい。ローテに食い込んだ桐敷はじめ今季きっと出てくるであろう森木、岡留、豊田らルーキーたちも同様だ。ぶっ壊した上で、ここが勝負という時に矢野監督のために力を結集する。そんなチームになってほしい。
今シーズン、文春野球コラム ペナントレース2022に寄稿する機会をいただいた。私自身も「優等生的ふるまい」を捨て、チームのために愛と情熱を注いでコラムを書きたい。
◆ ◆ ◆
※「文春野球コラム ペナントレース2022」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/53044 でHITボタンを押してください。
この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。