文春オンライン

《志村けんさん3回忌》「お前、何ガンつけてんだ。俺をにらんでたろ?」志村けんの愛弟子が『バカ殿』の現場で遭遇した“洗礼”

『我が師・志村けん 僕が「笑いの王様」から学んだこと』#4

note

志村さんが教えてくれた「二度見」

 収録にはセット替えというものがあります。

 たとえば『バカ殿様』の場合、スタジオには3つも4つもセットが組んでありました。部屋のシーンをまず撮って、次に庭のシーンを撮り、その次は廊下のシーンを撮る――という具合に、セットからセットへ移動しながら撮影していくのです。

 次のセットに移動しても、すぐに撮影が始まるわけではありません。カメラさんや照明さんなどがいろいろなチェックをするからです。これをセット替えというのですが、あるときセット替えの待ち時間に、志村さんから不意に、

ADVERTISEMENT

「二度見をやってみろ」

 と言われたことがありました。

「えっ!」

志村けんさん ©️文藝春秋

 焦りました。心の準備はまったくありませんし、それまで二度見なんてやったことはありません。もちろんやらないわけにはいきませんから、志村さんの二度見をイメージして、足を震わせながら何とかやりました。

「硬いな」

 志村さんは言いました。そして、おもむろに立ち上がり、なんとその場で二度見をやってくれたのです。感動する前に、ビックリしました。残像を持ち帰り、家で何度も練習してみましたが、その成果はいまだに心もとない感じです。

「それが辛いときのリアクションだから覚えておけよ」

 これも志村さんに付いたばかりの頃の出来事ですが、仕事が終わったあと、麻布十番の焼肉屋さんに連れて行ってもらいました。席について、お肉が運ばれてくるのを待っていると、志村さんがいきなり青唐辛子を差し出しました。

「生で食べてみろ」

志村さんは筆者に青唐辛子を食べさせて、辛いときのリアクションを教えた(写真はイメージ)©️iStock.com

 これ、絶対辛いやつじゃないか! 当時甘党だった僕は一瞬躊躇しましたが、「嫌です」なんて言えるはずはありません。

「いただきます」

 思い切って口に入れました。案の定、それは強烈に辛かった。リアクションを取る余裕はまったくなく、僕は大声で、

「からーっ!」

 と言いながらゲホゲホ咳き込み、涙目になったのでした。そんな僕を見て、志村さんは笑いながらこう言いました。

「いいか、それが辛いときのリアクションだから覚えておけよ」

 初めて会ったときに「教えることは何もない」と言っていた志村さんですが、こうして振り返ってみると、事あるごとにいろいろと教えてくれました。それは手取り足取りという教え方ではなく、体で覚えさせる教え方でした。#5に続く)

我が師・志村けん 僕が「笑いの王様」から学んだこと

乾き亭 げそ太郎

集英社インターナショナル

2021年2月26日 発売

《志村けんさん3回忌》「お前、何ガンつけてんだ。俺をにらんでたろ?」志村けんの愛弟子が『バカ殿』の現場で遭遇した“洗礼”

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー