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「大谷翔平くんもすごく好きだと思いますよ」川﨑宗則がカブス時代に指導を受けたジョー・マドン監督の“クレージー”な素顔

『「あきらめる」から前に進める。』より #1

2022/04/05

ワールドシリーズ中は試合前にウォッカを一気飲み

 ワールドシリーズの雰囲気は本当に独特でした。メジャーリーグの選手たちがシーズン中とは違うたたずまいをしていたし、同じことをしようとしているのに同じようにならない空気感がありました。メジャーリーグの王者を決める最終決戦ですからね。にもかかわらず選手たちはそれに負けないように、自分のポテンシャルの上を行くくらいの覇気を出してやっていたんです。

 その同じ空間を共有しながら、やはりあの舞台にいつかは立ってみたいとも思っていました。残念ながら僕の力は足りていなかったので、そこに立つことはできなかった。悔しかったですけど、受け入れてもいました。ここで立てる選手が真のメジャーリーガーなんだなと思えましたし、それはそれで貴重な経験でした。

 シリーズ中はとにかく寒かった。みんなホットクリームを体に塗りながらプレーしていましたね。実は試合前にみんなでウォッカを一気飲みして、ショットグラスをたたき割って気合いを入れていました。選手だけでなく監督、コーチ、スタッフ全員が集まってやっていたんです。デーブが気合いの声をかけると、みんなが「ヨッシャー!」という感じで。もう鳥肌が立ちましたね。これもNPBじゃ考えられないですよね。

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 シリーズ優勝を決めた最終第7戦もいろいろなことが起こりました。8回に抑えのチャップマン(アロルディス・チャップマン/現ヤンキース投手)が打たれて同点に追いつかれてしまうんですけど、ベンチに戻ってくるなり2メートル近い大男が子どもみたいに号泣していたんです。その後9回に天候不順で中断が入ったところで、選手たちだけで集まってミーティングをしたんです。

 そこでまとめ役のジェイ(ジェイソン・ヘイワード選手/現在もカブス)が「チャップマンはここまでよく投げてくれた。彼を男にするんだ! 勝つぞ!」と雄叫びをあげると、それに呼応してみんなが叫び声をあげながらお互いを叱咤激励したんです。間違いなくチームはひとつになっていましたし、英語が喋れない僕でもその場にいて、めちゃくちゃ熱くなっていました。改めて「野球をやってて良かった」「スポーツマンで良かった」と、言葉の壁を超えたスポーツの素晴らしさを感じることができました。

 試合が再開すると、気合い十分の選手たちは10回に勝ち越しして、本当にそのまま勝ってしまったんです。みんなと勝利の喜びを分かち合いながら、心の中では「ホントかよ、こいつら。このバケモノたちが!」と思っていました。本当にすごかった。試合には出られなかったけど、カブスのワールドシリーズ制覇は、間違いなく僕の野球人生のハイライトのひとつになりましたね。

2016年、カブスは108年ぶりにワールドシリーズを制覇 ©iStock.com

 でもワールドシリーズ終了後は勝利の余韻に浸ることなく、翌日には日本に戻りました。優勝パレードも参加していません。面倒くさかったし、もう十分お腹いっぱいだったし、人混みも嫌いなんで。それよりも早く日本に帰って練習したかったし、美味しいうどんを食べたかったから……。

 優勝リングも送ってもらいましたが、家にしまったままで見ることもしていないし、それを身につけて外に出ることは絶対にしないと思います。カブスの優勝、そして優勝リングはもう終わったことですから、思い出に浸っている場合じゃないんです。リングを眺める時間があるくらいなら、息子や娘を風呂に入れないといけないですからね。

後編を読む

「あきらめる」から前に進める。

川崎 宗則

KADOKAWA

2022年3月17日 発売

「大谷翔平くんもすごく好きだと思いますよ」川﨑宗則がカブス時代に指導を受けたジョー・マドン監督の“クレージー”な素顔

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