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「大谷翔平くんもすごく好きだと思いますよ」川﨑宗則がカブス時代に指導を受けたジョー・マドン監督の“クレージー”な素顔

『「あきらめる」から前に進める。』より #1

2022/04/05

 カブスは選手たちもものすごくいい奴らばかりで、若い選手が多いチームだったんですけど、ベテランとの関係もめちゃくちゃ良くて、おもしろいチームだと思いましたね。それと2012年以来のアリゾナのスプリングトレーニングだったんですが、個人的にアリゾナの気候が大好きだったのですごく楽しめました。野球以外でも毎日のようにホテルでバーベキューをしたり、アリゾナ・ライフを満喫していました。

 スプリングトレーニング中は、メディアの人たちが僕の開幕メジャー入りに関心を持ってくれていたみたいだけど、カブスでもマイナー契約だったわけだから、僕の中では「俺はマイナーリーガーだ」ということに変わりはなかったですし、まったく意識していなかったです。故障者が出ればメジャーに行くし、そうでなければマイナーでプレーするっていう「派遣社員」であることは一緒でしたからね。

シカゴ・カブスの本拠地であるリグレーフィールド ©iStock.com

ジョーが飲ませてくれた1杯の美味しいワイン

 そんなわけで2016年もマイナーで開幕を迎えて、4月に1回、7月に1回、そして出場枠が広がる9月の計3回メジャー昇格を経験し、最後はシーズンが終わるまでメジャーに残ることができました。チームも早い段階で地区優勝を決めていたので、ポストシーズンに備え主力選手を休ませるため、9月はちょくちょく試合にも使ってもらえました。ただ4月の昇格では2試合だけ、7月は1試合に出ただけでマイナーに戻りました。

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 自分がマイナーに戻るだろうなというのは、チームの状況を考えれば薄々気づくことはできました。故障者の代わりに呼ばれているわけだから、その選手が戻ってくることになれば、僕がマイナーに戻ることになるのは当然だから。

 そんな時はまずベンチコーチのデーブ(・マルティネス/現ワシントン・ナショナルズ監督)が僕のところに来て、「ジョーが呼んでるから監督室に行ってほしい」と声をかけてくれるんです。

 もちろんデーブが僕のところに来た理由はわかっているし、彼も申し訳なさそうな表情をしているんだけど、僕は「わかってる。気にしなくていいよ」と声をかけて監督室に行く感じでした。

 監督室に到着すると、ジョーから「カワ、申し訳ないけど故障者が復帰するから、マイナーに行ってくれ」と説明してくれる。そこで僕は「いいよ、大丈夫だよ」と答えたあと、「マイナーに落ちる前に美味しいワインを1杯だけ飲ませてくれ」とお願いしました。 

 ジョーはとにかくワイン好きで、監督室にワインセラーがあって高級ワインが何本もそろっていたんです。ジョーも「おおそうか。それならば」と言ってくれて、一番上等なワインをご馳走してくれました。産地などはわからなかったけど、赤ワインでした。あの時のワインはめちゃくちゃ美味しかったなぁ……。それで飲み終えると、「じゃあ行ってくるよ。またすぐに帰ってくるからいつでも呼んでね」という感じで、ジョーとの楽しい時間を過ごしてからマイナーリーグに戻っていました。

 なんていうのかな、ジョーは僕を「支配しよう」としなかったんですよね。それがメジャーリーグの良いところです。僕は僕として尊重してくれて、誰も支配しようとしない。その空間がたまらなく好きでしたし、それがあったからメジャーリーグに居続けたいと思えたんでしょうね。

 日本だとちょっと支配感が強すぎる気がして……。決して批判しているわけではないですし、それはそれでひとつのやり方だと思うんですけど、自分としてはジョーのような、選手に対するリスペクト感が好きでしたね。