移籍の決め手となったカブスの「プレゼン内容」は…?
ロックアウトが解除され、短縮キャンプの初日を終えた直後には、トム・リケッツ最高経営責任者、ジェド・ホイヤー球団編成本部長、デビッド・ロス監督や打撃コーチらが当時、鈴木が滞在していたロサンゼルスに乗り込んで、直接交渉に乗り出した。
その際には本拠地シカゴを初め、広島、さらに鈴木の獲得を目指している他球団の本拠地の気候を比較した詳細なデータを示して、「北国シカゴもそんなに悪くはない」というプレゼンテーションが行われたという。
鈴木は3月18日の入団会見で、「その熱意に心がやられて。それが一番の決め手でした」と語っているが、それはカブス首脳陣や、チームにいる日本人スタッフの努力の賜物だったわけだ。
「金銭面も大事かもしれないけど、あの誠意は心に刺さった」
熱い気持ちを胸にオープン戦デビューとなった3月25日、鈴木は2打数2三振と残念な結果に終わっているが、カブスにとってはそれも計算の内なのではないか。
なぜなら、総額はともかく鈴木にとって1年目となる今季の年俸は700万ドルに過ぎず、たとえば新型コロナウイルスのパンデミック前の2020年に3年2100万ドルでレッズに移籍した秋山翔吾外野手(前埼玉西武ライオンズ)の1年目の年俸600万ドルや、同年に2年1200万ドルでレイズと契約した筒香嘉智内野手(前DeNA横浜ベイスターズ)の同500万ドルと、それほど大差はないからだ。
チームの“核”に育ってほしいという想い
それはカブスが鈴木に対して、1年目からカステヤノスやシュワバー級の活躍をするだろうという過剰な期待を持っていないことを意味する。事実、「鈴木がMLBへの適応に苦戦するのではないか」という地元メディアの危惧に対し、ジェド・ホイヤー編成本部長はこう答えている。
「その過程が痛みを伴うものだとしても、心構えはできている」
カブスが鈴木を「長い目」で見守っているのは契約内容にも現れている。2年目以降は秋山が2年目700万ドル、3年目の今季が800万ドル、筒香が2年目700万ドルと微増していったのに対し、鈴木の2年目は1700万ドル、3年目は2000万ドル(4、5年目は1800万ドル)と比較できないほど劇的に増えていく形式になっている。逆に言えば、それだけ長期的にチームの“核”に育ってほしいというチームの想いが現れた契約とも言えるのだ。
カブスは2016年、108年ぶりのワールドシリーズ制覇を成し遂げたものの、当時のチームは選手の年俸総額の高騰と「若返り」を理由にほぼ完全に解体されている。1871年創設の伝統球団にして人気球団でありながら、未知数のチームであるのが今のカブスだ。
そのチームの新時代の旗手として期待されているのが、鈴木誠也なのである。