プロ野球選手たちに等しくやってくる競技から離れるその瞬間。「第二の人生」は人それぞれだが、球団職員として再就職する選手たちの多くは、スコアラーなどの「野球の専門職」を担う一員として雇用されている。

 そんな中、昨年横浜DeNAベイスターズを退団した笠井崇正さんは経理部の一員として今年から同球団で働いている。150キロを超えるストレートでならした豪腕は、いかにしてパソコンと格闘するデスクワークにたどり着いたのか――。

©横浜DeNAベイスターズ提供

◆◆◆

ADVERTISEMENT

「ビッグインパクトだ!」

 2017年シーズン、開幕前の練習試合でルーキーだった笠井崇正さんを見て、こう評価したのは当時の横浜DeNAベイスターズのアレックス・ラミレス監督である。若干ボールは荒れ気味だったものの、スリークウォーターから投げ出される力強いボールは迫力に満ちていた。

 笠井さんはその年、ファームで25試合に投げ防御率3.72とまずまずの数字で終えると、翌年の1月に支配下登録を果たした。ここまでは順調そのものだと言っていいだろう。

 だがその後、チャンスをなかなかものにすることができず苦しい時間を過ごすことになる。笠井さんに印象に残っている試合はなにかと尋ねてみた。

「2019年8月30日の広島戦でロングリリーフをしたことですね」

 晩夏のマツダスタジアム。先発の濵口遥大がアクシデントで緊急降板すると、笠井さんはスクランブルで2回裏からマウンドに上がり、4回1/3を1失点に抑え、自分に勝ち星こそ付かなかったがチームの勝利に貢献した。

©時事通信社

「活躍している選手はどこか遊び心があるんです」

 この年は16試合に投げ、さらなる飛躍を期待されたが、翌2020年は1試合、さらに2021年も1試合のみの登板となり、球団から自由契約を言い渡された。通算成績は20試合、0勝0敗、防御率5.93だった。常に自己探求を欠かさずレベルアップに努めてきた笠井さんは、なぜ結果を残せなかったのか?

「制球や変化球など細かいことを言うといろいろあるのですが、今考えると余裕がなかったというか、一生懸命やり過ぎてしまった部分はあったと思います。僕は常に『こういうふうにやりたい』『絶対やらないとダメだ』と考えてしまって視野が狭くなってしまうんです……」