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「皆さん、強豪校出身でずっと野球をやってきて、一方僕は実績もなくて…」

 改めて訊きたいことがある。引退して球団職員になる元選手はスコアラーなど野球の専門職に就く人が多いが、笠井さんにはそういった希望や選択はなかったのだろうか?

「うーん、例えばスコアラーさんとかは野球をよく知っていなければいけませんよね。けど僕は正直プロにはなりましたが野球をよくわかってないというか(苦笑)。皆さん、強豪校出身でずっと野球をやってきて、一方僕は実績もなくて、その点では及ばないと思うんです。正直、他の人とくらべると、僕はそれほど野球を見るほうではなかったので」

 なるほど。数奇な野球人生を歩んできているだけに妙に“納得力”のある答えである。

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「すごく野球が好きな人がこの世界には一杯いるのはわかっているので、そこではなかなか戦えないなと思いました」

 その時、自分がやりたいことを選ぶ。やりたくないことは出来ない。笠井さんのマインドは決してブレることがない。

遅咲きの「社会人1年生」が決まり、まず最初に買ったもの

 ユニフォームを脱いだ社会人1年生。出社するにあたり、まずやったことは何でしょう?

「えーと、カバンを買いました。ワークマンの2000円のリュックですけど(笑)」

©横浜DeNAベイスターズ提供

 就業当初はパソコンはおろか、コピー機の使い方にも悪戦苦闘した。だがこの仕事はひとつずつきちんとクリアしていけば必ず成果を上げることができると笠井さんは信じている。

「スポーツはいくらやっても成果にならないことがありますが、勉強や簿記は時間をかければやれるようになると思います。ただ知らないことも多く、毎月納期がある仕事で、まだ量を処理できるほどではありません。ここは頑張るしかありませんね。

 昨年までとは立場は違いますが、今後は別の場所から球団を支えられればいいなと考えています」

 そう言って笑顔を見せてくれた笠井さんからは、マウンド上で見せていたような覇気が感じられた。経理のプロフェッショナルになる、という意気込みがあふれ出ている。

 適性を見極め、人生を豊かなものとする。そこにはDeNAという球団の先見性も含め、笠井さんの存在は、プロ野球選手のセカンドキャリアにおける新たな可能性を感じさせた。

©横浜DeNAベイスターズ提供