今季最初の文春野球コラムということで、“開幕投手”について書かせて頂きたい。開幕投手とは多くの場合、チームのエースや柱となる選手に託されるものだろう。例年、ホークスでもそうだ。今季は誰もが認めるエース・千賀滉大投手がその大役を務めた。

 一方、プロ野球開幕の1週間前、一足先に開幕したウエスタン・リーグでは、未来のエース候補に名乗りを上げる高卒2年目の田上奏大投手が“開幕投手”を任された。つまり、ホークスとして2022年最初の公式戦で開幕マウンドに立ったのは背番号156の育成選手、田上投手だった。

突然の支配下登録解除から2軍の開幕投手へ

 2軍とはいえ、大きな期待が込められた正真正銘の“開幕投手”だった。

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「田上は今年、3桁(育成)ですが、(2軍で先発の)軸で回ってもらおうと思っている。投手コーチともそう話しているが、相当いいものを持っていると判断している。1軍との兼ね合いもあるけど、ウエスタン・リーグ開幕戦にぶつけたいくらい。キャンプから良いものを見せてくれている」

 ファーム開幕直前、ワクワクするような賛辞の言葉を並べたのは、今季から2軍で指揮を執る小久保裕紀2軍監督。キャンプインして割と早い段階で「“開幕投手”にしたい」と首脳陣を唸らせるものを田上投手は見せてくれていたという。ストレートの力強さは群を抜いていた。

 3月10日、2軍のオープン戦にあたる春季教育リーグで田上投手は素晴らしい投球を見せた。3イニングをパーフェクトピッチング。この日、最速は152キロをマークした。田上投手は「今までだったら3イニング目にはバテて球速が落ちたり、投げることだけで精一杯になっていましたが、今日は良かったです」と手応えを感じていた。自身の成長を肌で感じられる充実のマウンドだったようだ。

マウンド上での逞しさが増している田上奏大投手 ©上杉あずさ

 そして迎えた3月18日、ウエスタン開幕戦。1軍の開幕1週間前という事もあり、主力級の選手がファームで調整登板にあたることも少なくない。過去に千賀投手や東浜巨投手がファームで調整“開幕投手”を務めたこともある。しかし、今回は首脳陣の願い通り、田上投手が開幕マウンドに上がることができた。

 先発投手として5回を投げ、3安打無失点の好投。公式戦での“プロ初勝利”を挙げた。唯一と言っていいピンチ、3回一死1、2塁の場面では、相手バファローズ4番・太田椋選手のバットをへし折り、ゲッツーに仕留めた。自慢のカットボールで狙い通りの投球が出来、手ごたえを感じていた。三振も6つ奪った。田上投手は「変化球でこれまで取れたことがないくらい三振が取れた。今日は自分がしたいことが出来たなという感じがあります」とはにかんだ。球数的にも先発して5回まで投げるような調整は今春出来ていなかった。そんな中、期待を重圧に感じることなく、むしろ意気に感じて堂々たるピッチングを見せた。

 小久保2軍監督も試合後、開口一番「田上奏大がね~期待以上のピッチングだった」と嬉しそうに振り返った。更には「すぐ支配下になって上で活躍できるような力が僕はあると思うんでね。それを勝ち取るためにもこのウエスタン・リーグである程度圧倒的な数字を残すことが必要」と小久保2軍監督は熱い言葉を紡いだ。それくらい能力と伸びしろを既に認められているということだ。