文春オンライン
文春野球コラム

「お前の時は真っすぐしか待ってなかった」落合博満が星野伸之にかけた言葉の意味

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/04/10

 開幕から2週間余り、5カード目に入ったオリックスの成績は去年なかった5連敗もあり、6勝8敗。コロナの影響は心配ですが、去年の同時点でも5勝8敗1分で、貯金が出来ていったのは交流戦で勢いに乗った6月半ばから。

 また、昨年は11月末まで激しい戦いが続いたため、首脳陣は選手たちのコンディション面により気を配りつつ、先を見据えながら、長いシーズンを滑り出したところでしょう。

 さて、3度目となるコラムは10日(日)のアップを予定していたところ、週明けに当日のロッテ戦で山本由伸と佐々木朗希の初対決が実現するのでは!と一部報道がありました。これはタイミングもいいし、僕もメチャクチャ楽しみにしたのですが、由伸の登板が土曜日となり次回に持ち越し。

ADVERTISEMENT

 いやあ、見たかったし、出来れば試合を見てしゃべりたかった。150キロ対160キロの対決を120キロの僕が解説。実現していたら放送席から「羨ましい」を連発していたと思います。

 もし、実現していたら……。想像が膨らみます。おそらく、2人とも0対0で進む覚悟でマウンドへ上がったんじゃないでしょうか。試合を決めるのは一発か、ミス絡みか。投げ合いが進む中では2人の球数にも注目して見たと思います。

 共にどんどんストライクを投げ込み打者を圧倒していくタイプ。佐々木も前回3日の西武戦で8回を99球で投げ切り、13三振。抜群の内容でした。ただ、ローテーションで投げるのは今年が初めてで絶対に無理はさせないよう、ベンチも球数に配慮しながらの起用。

 オリックスからすればやはり簡単に打てないであろう中、去年から継続してきた粘りの攻撃で、球数を放らせながら突破口を探っていったのではないでしょうか。何にしても見たかったです。

筆者・星野伸之 ©文藝春秋

山本由伸が見せた凄み

 佐々木との対決は持ち越しとなりましたが、由伸は10日も勝って、球団新の18連勝。悪いなりにも粘って2点以上は与えない。この先、中6日、中7日での登板でも20勝近くいくだろうと普通に思ってしまいます。まだ戦いは始まったばかりですが、改めてその凄さを感じるシーンも目にしました。

 由伸が投げている試合で2度も打者がバントを空振りする場面を見たのです。プロの打者のバント空振りはそうないこと。特に阪神とのオープン戦で見た時はバントの空振りで三振。バントがファウルになった結果の三振はありますけど、プロの打者が確実にボールへ当てにいってのバント空振りでの三振はかなり珍しい。

 フォークだったと思いますが、イメージを超える落ち方だったのでしょう。シーズン開幕の西武戦でもやはりバントの空振りを見ましたし、僕が見ていない場面でももっとあるのかもしれません。

 プロの打者がバントをしにいって当たらない球を打つのがどれだけ大変か。思わぬところで凄さを実感しました。

打者なら、他チームなら、星野なら……山本由伸にどう立ち向かうか

 由伸のボールについて落合博満さんが

「俺がバッターだったら真っすぐ一本に絞る。(真っすぐを打てれば)他のボールは対応できるから」

 と言われたという話を聞いて、思い出すことがありました。

 現役時代、落合さんが中日へ移籍して1年目のオープン戦。低めに決まった完璧なカーブをホームランされたことがあったんです。あのコース、あのカーブをスタンドまで持っていくのか……と強烈に頭に残り、あとになって落合さんにその話をしたら

「お前の時は真っすぐしか待ってなかった。緩いのはいつでも打てるから」

 って言われたんです。落合さんは相手投手のウイニングショットを狙う、という話を聞いたこともありますが、当時と今度の話を合わせると、ストレートの球速が120キロ台の僕でも150キロ台の由伸でも、真っ直ぐ待ち。

 技術がある人はやっぱり違う、と思いながら、落合さんのバッティングを思い出していると、無性に落合さんと由伸の対決が見たくなってきました。落合さんならプロの打者がバントをするにも苦労するボールをどう打つのか、見たいですねえ。

 この先、対由伸を相手チームがどう考えていくのか。ここにも興味があります。

 田中将大が24連勝を飾った2013年は途中から各チームともエース級との対決を避け、オリックスも金子の登板日をずらしたことがありました。

 日本ハムにダルビッシュがいた時も同様で、相手からすると、この試合は負けてもその前後で勝てば……という考えになるのも仕方がない。それほどのピッチャーだということです。

 ただ、もし、僕が現役で対戦する側の投手だったら、由伸のような大エースと投げ合うのはイヤじゃなかったですね。当然援護の点は少なくなりますが、僕は常に勝負は勝つか負けるかの2つに1つ、と思ってやっていたので逆に気持ちが乗るところがあったはず。

 それに僕はいつも時間を気にしながら投げていたんです。完投したら3時間以内に試合が終わるペースが理想で、そういう時が投球内容も良かった。これが3時間半とかになるとリズムも悪くて乗っていけない。

 だからいいリズムで投げられることが多いエース級との対戦がキライじゃなかったんです。と、言いながら、2時時半で0対1で負けるのと3時間半で10対5で勝つのとどっちがいいかと言われたら、そこはやっぱり勝ちたかったですけど(笑)。

文春野球学校開講!