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「お前の時は真っすぐしか待ってなかった」落合博満が星野伸之にかけた言葉の意味

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/04/10
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96年のオリックスには“我慢のし甲斐”があった

 由伸も順調に滑り出したオリックスの今年の戦いにはリーグ連覇がかかっています。僕も95年、96年の連覇を経験しましたが、96年はプロ人生の中でも最高の滑り出しをしたシーズンでした。

 開幕戦は日本ハム戦で勉ちゃん(岩本)と投げ合って1対0、次のロッテ戦はヒルマン相手に1対0。3戦目の西武戦は西口と投げて延長11回、2対1のサヨナラ勝ち。まさにエース相手に最高のピッチングをし、勝ち星もついてきたのです。

 ペナントレースは、夏場まで日本ハムが走っていたのですが、チームに慌てた空気は一切なく、僕自身も普通にやれば最後は勝てる、とにかく普通にやることが大事と思ってやっていました。

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 思えばこれが前年優勝で生まれた自信だったのでしょう。8月末に首位に立ってそこから引き離しての2年連続のリーグ制覇、そして念願の日本一でした。

 96年の戦いで強く頭に残っているのは鈴木、野村のリリーフ陣が完璧に抑えていたことと、攻撃では、勝呂さんや馬場さん、本西さんらのベテランが1点を欲しい時によく粘って塁に出ていたこと。

 それをイチローが還して、試合がバタバタとしてきたところで、普段はそれほど打つというわけでもなかったニールが打って締める(笑)、そんな展開が多かったように思います。

 僕ら投手陣は、リードされながら投げていても、辛抱していれば必ず点を取ってくれると信じ、踏ん張れた。我慢しても点を取ってくれない試合が続くと、段々我慢が利かなくなっていくんですけど、我慢のし甲斐があるチームでした。

 よくいうところの投手と野手の信頼関係。ここがしっかり出来ていると強い。去年のオリックスもそうだったのだろうと思います。

 粘り強い戦いを引き出すのも、勝利への執念、絶対に諦めない、という今ではチームのテーマになっている1人1人の気持ち。今年もチームとしてやることは決まっていると思うので、どんな状況になっても「絶対に諦めない」という点を確認しながら、長いシーズンを戦っていくのでしょう。

中嶋の「諦めないで下さい」というメッセージ

 ところで「諦めない」という精神をチームに根付かせていった中嶋監督の現役時代の姿に今に重なる一面があったかと言われれば、思い出すことがあります。

 バッテリーを組んでいた当時、試合で僕がボコボコに打たれる時がある。そんな時、ベンチへ戻ると、今は吸わないタバコを吸いたくなってベンチ裏へ行くんです。

 普段は試合中に吸うことはなかったんですけど、今日は何をやってもダメだって時に吸いたくなる。

 そういう時に中嶋が「たばこ吸わないで下さいよ」って言いに来るんです。

 そのうちに、3、4点取られたりすると「まだダメですよ」って先に言いに来たり。タバコを吸うってことは、僕が試合を諦めたって見えていたんでしょうね。

 だから「まだ吸わないで下さい」っていうのは、「まだ諦めないで下さい」っていう彼のメッセージだった、と。

 それでも「わかった、わかった、大丈夫」って言いながら、ほんとに今日はダメだと思う時は吸ってしまうことがあって、それを中嶋が見つけると「ああ、吸ってしまいましたかあ……」ってガックリされたことも。

 思えばあの頃から「頑張って下さい」とか「抑えて下さい」じゃなく「諦めないで下さい」だった。僕より年は3つ下ですけど、勝負で一番大切なことは“そこ”だとわかっていたんですかね。今年も諦めない野球をやり通せば、去年届かなかった日本一にまで道はつながると期待しています。

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