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 これは番匠さんにお伺いしたいんですが、北朝鮮の核の弾頭数とかミサイルの実力をどう評価するか。私たちのミサイル防衛の実力で北朝鮮の核ミサイルを本当に止められるのか。私は、北朝鮮の技術がどんどん向上する中で、それは難しいと思っています。 

 北の核をどう見るかという点について、まず髙見澤さんからお願いします。 

北朝鮮が力を入れる3つの「弱者の戦法」 

髙見澤 北朝鮮の核の話はもう30年続いていますが、これまでの流れの中で、核を持たせないというシナリオがありえたのか、そうではなかったのか、私自身も問うています。最初の危機を契機にできた1994年の米朝枠組み合意、それによって発足した朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)とは何だったのか。結局、北朝鮮は国際社会に騙(だま)されたと言いながら我々を騙し続けて核開発や弾道ミサイルの増強と多様化に猛進し、現在に至っています。 

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 枠組み合意の後ですが、97年にハワイで核問題の専門家、朝鮮半島問題の専門家が集まって様々な議論が行われました。その中で北朝鮮が究極的に核を放棄する可能性があるかどうかについて全員にアンケートが行われました。意見は真っ二つに割れました。基本的な問題にこれだけ意見が分かれる対象に、参加者の1人として、いったいどういう政策を立てられるんだろうなと思った記憶があります。 

 北朝鮮は、核を諦めたリビアのケース、レジームチェンジになってしまった経緯なども意識しているでしょう。結局、核を諦めた者は悲惨な目に遭っており、核保有を継続しないと生き残れないと考えていると思います。 

 2022年は日朝平壌宣言から20年です。状況は大きく変わっていますけれども、やはり3つの正面で頑張っていくしかない。つまり北朝鮮の攻撃を抑止・阻止するための防衛力整備などの充実、北朝鮮の核と弾道ミサイルの廃棄の追求、それから日米、日米韓、有志国、国際社会における戦略的な協力関係の構築です。これには軍事だけでなく、拉致問題や経済的な側面も含まれます。 

 北朝鮮による軍事的な挑発は今後もあると思いますが、こちらがしっかり態勢を構築しておく必要があります。ただ、その内容は北朝鮮なりにかなり計算された、より緻密化された挑発という感じになるのではないかなという印象を持っています。 

この写真はイメージです ©iStock.com

番匠 北朝鮮と韓国のDMZ(軍事境界線)は約248キロあります。世界で一番軍事密度の高い状態で両軍が対峙しているという構造は、朝鮮戦争以来約70年間変わりません。軍事力を比較したとき、量は北朝鮮のほうが多い、質は南のほうが高いと言われてきましたけれども、韓国は最近では防衛費も日本を抜こうというぐらいに増やしてきている。もちろん近代化も進めていますから、それに比べて北朝鮮の軍の通常戦力における劣勢は明らかで、北朝鮮も当然それを意識しているのだろうと思います。 

 北朝鮮は「弱者の戦法」として3つのことに力を入れていると思われます。1つは核・ミサイル開発。2つ目がサイバー戦などの新しい技術。3つ目が特殊部隊です。世界で一番たくさん特殊部隊を持っているのは北朝鮮だと言われています。いずれも大量の通常兵力を抱えておくよりは費用対効果が良い方法だと認識しているのではないか。 

 核ミサイルの系列でいえば、北朝鮮は全部持っているんですね。戦略ミサイルのICBMと、射程5500キロから500キロまでのIRBM、MRBM、SRBM、そして射程500キロ以下の戦術ミサイルに至るまで、すべて備えている。しかも、その能力のレベルも非常に上がってきて、2017年11月に発射した火星15号は50分以上飛翔しましたから、通常軌道であればワシントン、ニューヨークなどアメリカの東海岸まで届くICBMを成功させたと言われています。