番匠 特に、スカッド系列とかムスダンといった戦域レベルの中距離弾道ミサイルはほぼ実戦配備を完了していて、これは日本が完全に射程に入っている。実際、私が現役で勤務している頃には北朝鮮が日本の上空を越えてミサイルを飛ばすというようなこともありましたので、そういう意味では彼らのミサイル能力の向上は決して侮れない。
北朝鮮が保有する核・ミサイル開発は
番匠 最近は技術が進歩して、固体燃料を使うようになってきています。エンジンの改良も進んでいる。最近はほとんど失敗しなくなってきており、正確性、あるいは秘匿性も上がりました。これらのミサイルは、TELと言われる発射台付きの車両に積載して運べますから機動性や秘匿性も高く、第1撃に対して強い抗堪性を持つことになります(注:北朝鮮は2021年9月16日と22年1月15日、鉄道発射式のミサイル発射実験の映像を、21年10月19日には潜水艦発射弾道ミサイルとする発射実験の映像を公開した)。
実は世界で一番大きなTELは従来、中国とロシアが持っている8軸16輪(8×16)のものとされていました。ところが最近、北朝鮮は9軸(9×18)の「火星15号」を発射し、2020年10月のパレードでは火星17号、これはまだ撃っていませんけれども、これのTELは11軸でした。世界最大のTELを持っているのは北朝鮮であり、この能力は決して侮ってはいけないし、しっかりと注意して行かなければいけない。もう、こけおどしでも張り子の虎でもない時代になってきているということです。
そして、これに関連して懸念されるのは弾頭に何を積むかということですが、これも皆さんご承知の通り、核実験は2006年10月に第1回目、まだ金正日(キムジョンイル)が生きているときに行われて、今まで6回行われていると思いますが、最初の5回は原爆だったんだろうと言われています。
しかし、2017年9月に行われた第6回目の核実験の威力は、防衛省の公表した見解では160キロトン程度ではないかと言われて、これは原爆以上水爆未満。原爆ではないのではないかとも言われています。それから核兵器を弾頭に積むための小型化についての実験だとすれば、能力も相当上がってきていることが分かる。核弾頭も30~40発程度保有しているとの分析があります(SIPRI Yearbook 2020)。
総合して考えると、北朝鮮はすでに「弱者の戦法」の方向にかなり舵を切っている。トータルとしてはなかなか勝ち目がないので、核・サイバー・特殊部隊、特に核・ミサイル開発に努力を集中し国の威信をかけてそれを進めていると考えられます。
一方、我々にとって心配なのは、北朝鮮の行動を「果たして計算できるのか」というところです。金正恩体制の不可測性ですよね。軍備管理とか軍縮の世界の常識が通じないかも知れない、リーダーの鶴の一声によってとんでもないことになるかもしれない。そういう危うさを持つ存在が日本の近くにあるということだろうと思います。
最近、我が国もミサイル発射に伴う国内の危機管理体制を整備し、内閣官房のポータルサイトやJアラートで警報を鳴らすといったことは行われてきていますけれども、日本にとって差し迫った直接的な脅威は北朝鮮だし、彼らが核兵器を実戦配備しようとしていることについての危機感は持つべきだと思います。
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