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“地政学”でウクライナ侵攻を解決するとしたら……「プーチンと対等に話せる人を動かすしかない」 話題の“紛争漫画”作者が語る「今回の侵攻の特異性」

漫画『紛争でしたら八田まで』著者インタビュー

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 そういう興味があったこともあって、作品のアイディアを出していくうちに、世界の紛争地帯で地理や政治、軍事など様々な知識を活かして活躍する“地政学リスクコンサルタント”というキャラクターが生まれたんです」

紛争地域の取材は“オンライン英会話”でも…!

 作中では2019年の連載開始から、ミャンマーやイギリス、ドバイなど様々な国を舞台にしたエピソードが描かれている。現地情勢の取材は、今でこそ専門家を通して取材相手を紹介してもらっているというが、連載が始まって間もない時期は「オンライン英会話での取材がとても役立った」と田さんは振り返る。

「もちろん本を読んでその国について勉強することもします。ただ、本の情報だけだと5年くらい古い情報になってしまう。なので、現地の人に『今まさにどうなっているのか』を聞きたい時、オンライン英会話はとても役に立ちましたね。特に買い物や食べ物といった日常の生々しい情報はとても大切にしているので、そういった部分の話が直接聞けたのは非常に大きかったと思います。

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ロシアのウクライナ侵攻の背景が漫画で分かりやすく解説されている ©田素弘/講談社

 ウクライナの取材の時は、まずウクライナ国籍の講師を探して、フリートークで現地の様子を聞いていましたね。ウクライナ語の講師はロシア系の人がほとんどでしたが、当時は『友達にもウクライナ系の人がいるし、差別はない』『私はキエフに住んでいるけど、家族はロシアにいる』と言っていました。

 もちろん建前かもしれませんが、実際に話していてもそこまでロシアとウクライナの両国に隔たりを感じることはなかったです。ただ、こういう状況なので彼らはもう英会話講師の登録からも消えてしまっていて、本音を聞くことはできなくなってしまいましたが……」

ウクライナとロシアの紛争を描いた理由は…?

 ではなぜ、世界中に多くある紛争地域の中からウクライナを舞台に選んだのだろうか?

「西欧諸国とロシアの緩衝地帯になっているウクライナは、地理的にも複雑な場所にあり、地政学を使う漫画のコンセプトを表現しやすい地域でした。2014年のロシアによるクリミア併合の記憶も新しかったので『国土を取った、取られた』という表面的な部分だけではなく、その裏側を描きたいなと思ったんです」

ロシアとウクライナには地理的、宗教的など様々な理由で微妙な関係性がある ©田素弘/講談社

 奇しくも、その僅か数年後に実際にロシアがウクライナに侵攻する事態となってしまった。作品の舞台が本当の紛争地帯になってしまったことについて、田さんは今何を思っているのだろうか。