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“地政学”でウクライナ侵攻を解決するとしたら……「プーチンと対等に話せる人を動かすしかない」 話題の“紛争漫画”作者が語る「今回の侵攻の特異性」

漫画『紛争でしたら八田まで』著者インタビュー

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 強いて何かできるとするならば、『プーチンと話せる人物』を動かすことでしょうか。例えばインドのナレンドラ・モディ首相や中国の習近平国家主席とかですかね。ただ、インド・中国ともに米露に対しては、付かず離れずの中立を保とうとするでしょうね。もし日本の安倍晋三元首相が現役なら……彼にプーチンの説得をさせたかもしれませんね」

プーチン大統領と安倍晋三元首相 ©getty

戦争は後の資料で見え方が大きく変わることもある

 現状では八田が戦争を解決することは難しいと語る田さん。一方で、「いずれはこの戦争も作中で描く必要があると思います」とも語る。

「でも、今すぐ漫画として描くと、ロシア側を断罪することになってしまうので扱いが難しいです。そこまでわかりやすく善悪を割り切ることができない。というのも、こういった戦争だと後に出てくる資料で物事の見方が変わることがよくあるんです。

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 例えば第二次世界大戦の時の真珠湾攻撃もそうですよね。当時は日本だけが侵略者として非難されていましたが、今では日米両国の資料が豊富に揃っていて、日本だけを断罪するのではなく、様々な視点からの研究がされていますよね」

 日本では現状のロシアによるウクライナ侵攻は、西側諸国から見た情報が圧倒的に多い。俯瞰的に事態を分析できない現時点では、地政学的に描くにあたって慎重にならざるをえないのだ。

「ただ、この戦争は間違いなく世界の歴史の転換点になっていて、無視することはできません。ですので、時間をおいてしっかりと状況を分析して描きたいですね」

紛争を他人事ではなく、当事者のように考えてくれたら

 現実が漫画の世界を追い越してしまったとも言える今回のウクライナ侵攻。期せずして予想以上の注目を集めることになった作品を通じて、田さんはどんなことを読者に伝えたいのだろうか。

田さんは作中で現地の食事の描写にも気を使っているという ©田素弘/講談社

「僕の漫画を読むことで、今世界で起こっていることを身近なこととして捉えてくれたら……という思いがあります。作中で僕は現地の“マズイ料理”を描くことが多いのですが、それも、観光パンフレットに載っているような綺麗な料理だけでは現地の本当の生活を描けないと思うからです。

 現地の人は、例えば昆虫や癖の強い動物の内臓とかを日常的に食べている。そういった“生々しい”部分を描くことで、その土地のリアルを感じてほしいんです。自分の漫画を読むことで、その地域ごとに生活があり、そこで今まさに紛争が起きているということを、他人事ではなく当事者のように考えてくれたら嬉しいですね」

『紛争でしたら八田まで』(講談社)は既刊8巻好評発売中、以下続刊。最新刊9巻は4月21日(木)発売予定。

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。

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