ロシアの侵略開始から1カ月以上経つが、予想に反し、ウクライナ軍は善戦している。
その首都キーウの中枢に留まって指揮を執るのは、喜劇役者から政治家に転じた異色の大統領、ヴォロディミル・ゼレンスキー氏(44)である。
SNSを通じて戦時下の国民を鼓舞し、世界各国に向けたオンライン演説によって巧みに共感を集め、いまや国際ニュースはゼレンスキー氏にジャックされているといっても過言ではない。
なぜゼレンスキー氏はこれほど「大化け」したのか?
ウクライナを40回近く訪問し、ゼレンスキー氏とも2回面談したことのある岡部芳彦・神戸学院大学教授が、その知られざる素顔を「文藝春秋」に明かした。
一瞬にして人の心をつかむ術
岡部教授がゼレンスキー氏の特徴としてまず挙げるのは、「その場の雰囲気で一瞬にして人の心をつかむ術」に長けているという点である。
岡部教授は自身のこんな体験を明かす。
〈毎年秋にウクライナで開かれている有識者会議「ヤルタ・ヨーロッパ戦略会議」に2019年に出席した時のこと。記念撮影の際、大統領に就任して間もないゼレンスキー夫妻が、ちょうど私の真ん前に立ったのです。
そこで、思い切って彼の肩を叩いて記念撮影をお願いしました。生まれて初めての自撮りにまごつく私を見て彼は笑い、デジタルカメラを手にシャッターを押してくれました。妻オレナさんはその美貌からは意外なほど、ソフトな印象でした。〉
それから約1か月後。天皇陛下の即位の礼の際、来日したゼレンスキー氏から岡部教授は声をかけられる。