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英雄か、それとも危険なポピュリストか? ゼレンスキー大統領(44)の素顔が見えた“来日時のエピソード”

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〈朝食会の場で並んでいると、私にいち早く気づいた彼は、「セルフィーマン!」と声をかけてくれました。

 小柄ですが、そう感じさせない。スター特有のオーラというのでしょうか。それでいて忙しい東京滞在中も時間を見つけ、妻や2人の子供と買い物に出る家庭人でもあるのです〉

政治風刺で政治の「勘」を磨く

 瞬時に人の心をつかむ能力は喜劇役者の経験によるものだろうが、政治感覚はどのように身につけたのか? 岡部教授は「ゼレンスキー氏が政治風刺を手掛けてきたことが大きく影響している」と解説する。

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 キーウ国立経済大学在学中の19歳の時に劇団「クバルタル95」を結成したゼレンスキーは、次第に旧ソ連域内で知られるようになる。当時のコントの半分以上は政治風刺だった。

〈政治風刺で笑いを取るには、政治についての知識と「勘」がなければできない。この過程で培った蓄積がゼレンスキーを政治家の道に導いたとも考えられます。

 ロシアを活動の中心に据えていたゼレンスキーに転機が訪れたのは2014年3月、ロシア軍によるクリミア占領の時でした。

 ゼレンスキーは即座にウクライナ軍に寄付をしたり慰問をしたりと、愛国的な行動を取り始めます。ロシアの芸能界からは出入り禁止を言い渡され、ウクライナに活動の中心を移すことになります。〉

 そして2015年に大ヒットしたのが、連続ドラマ『国民の僕(しもべ)』だった。

人気ドラマ「国民の僕(しもべ)」で主演

 ゼレンスキー氏が扮する主人公は、しがない高校教師。汚職が横行する政治への怒りを職場でぶちまけていたところ、その姿を隠し撮りした動画がネットで拡散されたことで注目され、大統領に選出される――というストーリー。政治家がやりがちな悪行を拾って笑いに変えた作風が受け、第2部、第3部が制作される大ヒットとなった。

 ドラマでは、プーチンがたびたび風刺のネタにされる。

 たとえば新大統領(ゼレンスキー)が、「身分相応の腕時計を身につけましょう」と諭され時計屋に連れていかれるシーン。奨められた高級時計ウブロ(HUBLOT)の値札に驚いて、「こんなの誰が着けているんだ?」と店員に問うと、「プーチン」という答えが返ってくる。

「プーチン」「ウブロ」という言葉を2人がそこで連呼するのだが……。