1ページ目から読む
2/2ページ目

清宮が自力で這い上がり、本当の主力選手となったとき

 厳しさ。

 甘えずに自分で這い上がって来いというメッセージ。

 唐突に清宮幸太郎を思い出す。昨年は一軍出場ゼロと燻っていた。何かを変えなければという思いは本人にも、そしてビッグボスにもあったに違いない。まず痩せようと身体を絞らせた。ノースリーからでも打ちにいけと指導した。見逃してしまうと「なんで打たないんだ」とばかりに頭を抱えた。まずやってみろ、失敗してもいいんだ、何かを変えるんだ。だからといって特別扱いはしない。スタメンを外す日もある。

ADVERTISEMENT

清宮幸太郎を指導するビッグボス

 3/26対ソフトバンク戦、特大の今季第1号をしっかりとライトスタンド中段へ。鋭いスイング、インパクト、フォロースルー、打球角度。あらためて言うが、清宮のホームランには華があった。第2号は4/6ロッテ戦。本前投手のストレートをライトスタンドへ、アーチストらしい放物線を描いた。後日、ラジオのパーソナリティがそれを「きれいなホームランでしたー」と言った。そう、清宮のホームランは美しい。いままでもそうだったけれど、痩せてシュッとしたせいか余計に映えて見える気もする。

 まだ三振も多く信頼はおけない。私の感じているのは兆しに過ぎない。ただ、みんなが思い描いてる清宮の片鱗は、やっと見えてきたのかもしれない。

 清宮が自力で這い上がり、本当の主力選手となったとき、そうなったら誰ももうノースリーから悠然と見逃しても何も言わないだろう。清宮は自分のやりたいようにやる。

 実家から車で20分ほどのところに父の行きつけの定食屋があって、定期的にそこで二人で食事をするのが恒例となりつつある。いつしかあの頃とは逆の立場となり免許を返納した父が助手席である。行きと帰りの道中、何を話すのでもないけれどやっぱりその時間は落ち着くのだ。いつものように身体や仕事の心配をしてくれ、ときに思い出したように野球の話をする。

「厳しさが足りない」というのはもしかすると、甘く育ててしまった不肖の息子に対する反省もあるのかなと思った。

 チームが低迷していると、つい厳しさを求めてしまう。けれど、どんな結果だろうとそれを受け入れ、見守ってあげたいとも思う。最近特にそんな風に思うのは、父との時間を以前より多く過ごしているからだと思うのだ。上手く行かなくても変わらぬ表情で「そうか、まぁ、次、頑張ればいい」と見守ってあげたい。いやぁ、難しいんだよなぁ。

 清宮また打ったな、やっぱりモノが違うな。静内の食堂で父がぼそぼそ言うのが聞きたい。父さん、ハムを見守っていこうよ、これからも一緒に。

行きつけの食堂、東静内「あさり浜」。暖簾をくぐろうとしているのが父、86歳 ©ビーバー池田

◆ ◆ ◆

※「文春野球コラム ペナントレース2022」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/53234 でHITボタンを押してください。

HIT!

この記事を応援したい方は上のボールをクリック。詳細はこちらから。