プロ野球史上初、2試合連続の完全試合はああいう形で消えた。
コロナ禍での観戦につき声出し応援は禁じられているせいもあるが、9回表、ライトスタンド方向から黒いリリーフカーがやってきたのを見てもスタンドは静かだった。少なくとも三塁側の2階席ではザワつかなかった。僕自身はゾンビに食われる寸前に太陽の光が差してなぜかゾンビが逃げて行った、というような不思議な安堵を感じていた。
「パーフェクトに近いピッチング」をされる予感はあった
4月10日、佐々木朗希が完全試合を達成した夜にこの日のチケットをネットで買った。東スポWEBが「次はBIGBOSSの日ハム戦。2試合連続完全試合か」と報じるのを「東スポだから」と笑い飛ばせなかったのだ。ファイターズが2試合連続の完全試合を阻止するのを期待しつつ、ひょっとしたら完全試合が見られるかもと頭の片隅で思っていた。
ところが世間は片隅ではなく頭のド真ん中で「2試合連続」を考えていたようだ。
土曜日に予告先発が発表されると、日曜の朝、チケットは完売した。テレビ東京は午後2時から放送予定だった中村梅雀主演「日曜ミステリー 信濃のコロンボ 事件ファイル12 陰画の構図」を中止。急遽、ZOZOマリンからの生中継を決めた。
当日、海浜幕張の駅から球場まで人波が続く光景を久しぶりに見た。スタジアムの外に並ぶ屋台はどこも行列。帯広の豚丼を買いたかったけど諦める。グッズ売り場で「17」の品物を物色しようとしてもやはり行列の最後尾に並ばないと売り場には近づけなかった。誰もが「パーフェクト見物」に来ているように見えた。かつてこれほど「完全試合」を予定され、期待された投手がいただろうか。
少なくとも「パーフェクトに近いピッチング」をされる予感はあった。
ファイターズは前日の17安打が効いてチーム打率はリーグトップタイ(ホークスと並んで)とはいえ、.229は低い。その上、目下首位打者、絶好調の松本剛がスタメンにいない。なんで? BIGBOSSがまたわけのわからない起用を……と思ってスマホで調べたらコロナの接触リスクを踏まえて自主待機とのこと。痛い。
試合開始から佐々木朗希は期待通りのピッチングを披露する。160キロ超のストレート、140キロ台後半のフォーク、ときおり前に飛ぶ打球、BのユニフォームがFに代わっただけの先週の続き。凡そ野球というものは、投手は「守備」で打者が「攻撃」なのだが、佐々木朗希のピッチングは見るからに「攻撃」的である。ファイターズの9人がボコボコに殴られてはベンチに帰っていく雰囲気だ。
一方、3万人の観衆もテレビの前の視聴者も予想していなかったのがファイターズの先発・上沢直之の快投だ。「(佐々木朗希の)素晴らしいピッチングを僕も見ていてワクワクした。僕も点を取られなければ負けることはないと分かっていた」(スポーツ報知)と試合後に語ったファイターズのエースは2回終了時点で朗希を上回る5つの三振を奪う。あとで録画を見たら、地上波のテレビ東京では朗希がマウンドを降りると長いCMに入り、それがロッテの攻撃イニング途中まで明けないため、上沢の5奪三振のうち1つしかON AIRされていなかった。
スタンドでもロッテの攻撃中に人が動いた。この日のグッズ付きチケットのアイテム、CLMのロゴが入ったグレーのパーカーを着た人々が売店に並び、あるいはトイレに立つ。その間、上沢はスコアボードの下の段に0を連ねていく。