合意書を交わしたとしても法的な効力は……
精子提供にあたって、ささぼん氏は事前に書面での取り決めを交わしていない。なお、同じく連載を読んで連絡をくれた青森県で精子提供活動をするスタリオン氏(44歳)は、「精子提供者は生まれた子どもを認知しない」といった細かな取り決めを、事前に書面で交わしている。だが、この分野に詳しい法律の専門家は、
「たとえ合意書を交わしたとしても法的な効力は否定される可能性があり、女性側の気が変わったり、子ども自身がドナーに対し認知を求める調停や裁判を起こした場合、認知としての効果が認められてしまう可能性もあります。ただし、今後の裁判所の運用として、合意書の存在や、ドナーという特殊性を配慮するような判断になることは十分考えられます」と言う。
ささぼん氏は話す。
「認知となると養育費の支払いや相続義務が発生しますが、僕は生まれてくる子どもの幸せを一番に願っています。そうしたリスクは覚悟の上でこの活動を始めました。
今回は、妊娠後に『何か困っていることがあったら言ってください』と相手の女性に伺ったところ、認知の話が出てきた。子どもが自分の意志で父親を知りたいとなったとき、戸籍から僕を辿りやすくなるよう認知をしてあげたい気持ちはあります。相手の女性とは連絡を取り合いながら、今後のことを話し合っているところです」
実はささぼん氏、この状況を母に打ち明け、理解を得ているという。母は息子の活動をどう思っているのか。書面で回答を寄せた。
「シングル女性が子どもを欲しいと思うとき、希望に沿った遺伝子を持つ男性を選びたいという気持ちはよくわかるし、認知に関しても、子どもの気持ちを思うとできれば小さいうちから父親と名乗ってあげるのはいいことだと思います。ただ、精子提供者には養育や相続の義務がないことなど法整備をして提供者を守らないと、精子提供者は激減していくでしょう」
20年末に成立した生殖補助医療法では、〈妻が生殖補助医療で第三者の提供精子で出産した場合、同意した夫が父親である〉という親子関係が明記された。しかしこれは「夫」の存在が前提であるうえ、個人間の提供で生まれた事例に法整備が行き届くことは難しい。
ささぼん氏は今後国が許可する精子の登録機関ができ、精子の質が担保され、提供者の立場も守られるのであれば、個人提供を辞めて登録したいと思っている。
また生殖補助医療法の骨子案では精子売買の禁止を決定したものの、医療に対する法律のため、医療外で行われる精子提供は対象外だ。