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〈精子提供訴訟がニュースに〉「それでも私たちは個人間提供に頼らざるを得ない」レズビアンのカップルが子どもを望むときにぶつかる“壁”

シリーズ精子提供 最終回

2022/04/24

 「精子提供」を巡って、いま国内が揺れている。1948年から第三者の精子を用いた人工授精(AID)を行ってきた慶応大学病院が、2018年に新規受け入れを中止。一方、SNS上には「精子提供します」と謳う、個人のアカウントが溢れている。(全3回の3回目/#1#2より続く)

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 昨年12月、精子提供を巡る日本初の訴訟が世間を騒がせた。訴えを起こしたのは都内在住で30代の既婚女性Aさん。

 訴状によると、東京大学出身の夫との間に第一子がおり、二人目の妊娠を望んでいたが、夫に遺伝性の難病の疑いが判明。夫との子を諦め、2019年3月からSNSで精子提供者を探し、ある男性と出会った。のちにAさんに約3億3000万円の損害賠償金を求める訴訟を起こされる、20代の男性Bさんだ。

ドナーの経歴詐称に動揺、生まれた子は児童福祉施設に

 Aさんはドナーに求める条件として夫と同等の学歴、未婚、日本人であることを最重要視していた。Bさんは京都大学出身を示唆し、未婚と説明。また氏名欄は隠していたものの勤務する大手生命保険会社の社員証を提示したため、Aさんは条件に一致すると判断。約10回のタイミング法を試み、同年妊娠した。

 精子提供の方法には、注射針のような器具に精子を入れて渡すシリンジ法もあるが(女性は膣内に自分で精子を注入)、タイミング法とは女性の排卵日に合わせた直接の性交渉である。

 ところがその後、男性が静岡大学出身で既婚者、中国籍であることが発覚。信頼関係が崩れたと感じたAさんは動揺するが、すでに中絶可能な時期を過ぎていた。産後、Aさんは「極度の精神的苦痛により養育が困難」と都に判断され、生まれた子は現在、児童福祉施設に預けられている――。

©iStock.com

個人間精子提供のリスクを案じる声も

 実はこの事件、Aさんが訴訟を起こす前から複数のメディアで報じられていた。『週刊女性』20年6月2日号の記事では、Aさんが妊娠後もBさんに関係継続を求めているLINEの文面を公開。AさんBさん双方に取材したうえで、AさんがBさんに恋愛感情を持っていたのではないかという見方が掲載されている。

 だがAさんは訴状で、妊娠後も連絡を取り続けたのは、Bさんの詐欺行為に対する情報収集のためだったと説明。本稿を書くにあたり、Aさんの代理人弁護士に取材依頼したが、依頼人の体調が回復するまで差し控えたいとの回答だった。

 事件が報じられると、ネット上にはAさんへの非難と共に、個人間精子提供のリスクを案じる声も溢れた。Aさんの事件で表面化したように、身元や精子の所見、感染症や遺伝病の有無といった情報は、ドナーの自己申告に頼らざるを得ないからだ。しかしそれでも、個人間の精子提供を求める女性があとを絶たないのは、なぜなのだろうか。

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