「精子提供」を巡って、いま国内が揺れている。1948年から第三者の精子を用いた人工授精(AID)を行ってきた慶応大学病院が、2018年に新規受け入れを中止。一方、SNS上には「精子提供します」と謳う、個人のアカウントが溢れている。今回はデンマークの精子バンクを利用して、娘を授かった女性に話を聞いた。(全2回の2回目/#1より続く)

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 幼少時の写真、職業、EQテストの結果……。

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 デンマークの精子バンク、「クリオス・インターナショナル」(以下クリオス)のサイトには、多国籍の精子ドナーたちの豊富な情報がずらりと並んでいる。

 都内在住の藍さん(仮名・37歳)は1つずつチェックしては、ドナー候補者を絞り込んでいった。その男性が実際にパートナーだったら気が合うかな、と思いを巡らしながら。

クリオスHPの精子ドナー情報欄。

約29万円で「人工授精5回分の精子」

 藍さんが最終的に決めたのは、あるヨーロッパの男性の精子だった。決め手となったのは、保育園に通う息子と、ドナーの幼少時の顔の印象が似ていたこと。

 クリオスとの面談後、彼女は「人工授精5回分の精子」を希望すると、クリオスに精液検査や感染症検査、遺伝子検査、精子の凍結・保管、配送などの対価として、日本円にして約29万円をオンラインのクレジット決済で支払った。1.5営業日後にはクリオスから日本の医療施設に精子が発送され、人工授精を受けた藍さんは1回目で着床。施術に関わる医療費は医療機関に支払った。

「うちに赤ちゃんがきたらどう思う?」

 妊娠5カ月ごろ、息子に聞くと、「レオのことでしょ?」と返された。まるで赤ちゃんが生まれることが決まっているかのように、自然に受け入れてくれた。性別が判明する前には、「やっぱりキキちゃんって名前にしていい?」と可愛らしい注文を口にした。2021年春、第二子となる女児が誕生した。

「グローバル精子・卵子バンク」と記されたクリオスのパンフレット

 もともと子どもは二人欲しいと思っていた藍さんだが、元夫(息子の父親)との間にはそれが叶わなかった。夫による藍さんへの激しいDVが原因で、息子が3歳になる前に離婚したからだ。それでも二人目がほしいと考えるようになった頃、クリオスが日本窓口を開設したことをニュースで知った。

 医療系の研究職に就く藍さんは、学部・修士を米国で修めている。当時住んだマサチューセッツ州では同性婚がまさに法制化された頃で、その空気にリアルに触れた経験は大きかった。