周囲の反応は…
「アメリカ生活や、海外の仕事仲間との繋がりの影響で、従来の家族観に縛られなくなっていたし、子どもを授かるために精子バンクを利用することにも抵抗はありませんでした。だから、クリオスの日本窓口開設はまさに渡りに船。挑戦しない手はないと思いました」
周囲には受け入れてもらえないかもしれないと覚悟した上での妊娠だったが、経緯を知った職場の同僚からは「そんな選択肢があったんだ。世界が広がる気がする」と思いがけない言葉をかけられた。出産を介助してくれた助産師の反応も印象的だった。
「陣痛中にもかかわらず、“カルテを読んだんですけど、私も精子提供を考えているんです”と声をかけられ、生まれた直後には“やっぱりかわいいですか?”と確認されて(笑)。精子提供で生まれた子でもちゃんとかわいいと思えるか、気になったんでしょうね。
私は元夫とのことで血が繋がっているからといって良い親になれるわけじゃないと思い知っていた。精子提供で生まれた娘との関係に全く問題はありません」
藍さんは娘が生後6カ月の時に復職した。保育園やママ友には事情を隠さず伝えているが、眉を顰めるような反応をされたことはこれまで一度もないという。
生活のオペレーション全体が育児に最適化されている
研究者として安定した仕事に就いているとはいえ、一人で幼い二児を育てることには不安を抱かなかったのだろうか。
「確かに養育費ももらっていないですし、一馬力なので経済的には二人親よりは不安定かもしれませんが、それ以外の不安はさほど感じていません。育児については、むしろ友人から“生活のオペレーション全体が育児に最適化されている”と言われます。夜遅く帰宅する夫に食事の用意をすることもないし、子どもが寝静まったあとに夫にテレビをつけられることもない。
育児に積極的な父親ならばそんなふうに思わないのでしょうが、子育てのマイナス因になるくらいならいないほうがいい。結婚していた頃は警察のお世話になるほど苦労したので、今は育児ってこんなに楽しかったんだって思いながら、日々過ごしています」