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〈精子提供訴訟がニュースに〉「それでも私たちは個人間提供に頼らざるを得ない」レズビアンのカップルが子どもを望むときにぶつかる“壁”

シリーズ精子提供 最終回

2022/04/24
note

快楽目的で、性交渉を迫るドナーも

 第一に、日本産科婦人科学会の方針により、医療機関での第三者の精子を用いた不妊治療は、男性不妊と診断された法律上の婚姻夫婦以外には、原則みとめられていないという実情がある(3月7日にまとまった生殖補助医療法の骨子案で、婚姻夫婦に限ることが法律上決定)。

 第二に、医療機関で第三者の精子を用いる際には、基本的にドナーの情報は血液型以外教えてもらえない。「身元の知れない精子を自分の身体に入れることは、女性にとって地獄」。筆者は、夫の不妊により、精子提供を受ける女性のこんな声を聞いたことがある。提供者の人となりを知りたい、そう願う夫婦が、リスクを承知で個人の精子提供に頼るケースは少なくないのだ。

 第三に、医療機関での不妊治療は費用が高額になる。今年4月から不妊治療に公的医療保険が適用となるが、第三者の精子を用いる非配偶者間人工授精(AID)は保険適用外に留められた(非配偶者間体外受精も)。一方、個人間の提供であれば、実費以外を受け取らない無償のドナーもいる。

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 だが無償提供においては、心理的に男性優位になりやすいといわれる。女性がシリンジ法を希望しても「タイミング法のほうが妊娠率が高い」などと理由をつけ、快楽目的で性交渉を迫るドナーもいるのだ。

 さらにこんな問題もある。個人間精子提供では、女性側のリスクに注目が集まりがちだが、実はドナー男性の側にもリスクがある。

提供したシングル女性から子の認知を求められた男性

 この連載を読んで編集部に連絡をくれた精子提供者ささぼん氏(26歳)が現在置かれている状況を知ると、それがよく分かる。精子提供したシングル女性から、生まれた子の認知を求められているのだという。ささぼん氏が精子提供を始めたのは22歳のときだった。

「人が生きるうえで重要なのは自分の種を残すことだと、幼いころから母に言われていました。精子提供によって自分の種を残すと同時に、相手の方の種を残すことにも貢献できると思いました」

 シリンジ法による提供で、レズビアンカップルとシングル女性に計3人の子どもが生まれ、さらに現在妊娠中の女性もいるという。