レズビアンで子を望む女性のなかには、ゲイの友人と書類上の友情結婚をして、医療機関で人工授精や体外受精を行い、子を授かるケースもあるという。
「結局、婚姻夫婦ならハードルを飛び越えられるというわけです。今回の法案が施行されると、子を希望するレズビアンカップルやシングル女性の医療機関へのアクセスは完全に閉ざされるでしょう。ますます個人間提供に頼らざるを得ません」(長村さん)
親戚からは、冠婚葬祭に呼ばれない
茂田さんは産後の長村さんを気遣い、料理、洗濯、赤ん坊の風呂当番など大奮闘しているという。夜は赤ん坊と寝る係、二匹の犬と寝る係を順に担当する。
「昨晩はさと子が子どもと寝たのですが、今朝、二人の部屋に顔を出したら子どもが私を見てめちゃくちゃ笑ってくれて。血のつながりはなくても、オムツを替えたり、抱っこして泣かれたり、そんな日常の経験と時間を積み重ねながら、関係性を築いていくんだなと実感しています」(茂田さん)
長村さんの実母も、茂田さんの家族も子どもをとても可愛がってくれている。
「ただ、私の親戚からは認めてもらえてません。兄弟の家族と違って、私たちだけ家族として冠婚葬祭すら呼ばれません。まるで空気のようにいないものとして扱われています。改めて、この子の権利がないということが本当に怖いと感じました」(長村さん)
帰り際、道路までの通路の凸凹をベビーカーが通りやすいようにと茂田さんがDIYで黙々と整備していた。二人の日常に触れ、こんな言葉が思い返された。
「たとえばレズビアンのカップルに育児上何か問題が起きるときっと、それみたことかとニュースで大きく取り上げられるでしょう。でもそれは異性婚の夫婦でも同じように起きること。
また、もしレズビアンやシングル女性の家庭で育つ子に問題が多かったとしても、彼女たちの子育てに問題があるというより、社会的な偏見や不利益による育てにくい状況が影響している可能性もある。それだけはないようにしていかなくては」
岡山大学学術研究院保健学域教授でGID(性同一性障害)学会理事長の中塚幹也氏の言葉だ。
生殖補助医療の骨子案では、今後治療の対象について5年をめどに検討することが示された。当事者にとって5年の歳月はあまりに長いが、法律を変えるのに5年で足りるだろうか。二人に生まれた赤ちゃんの幸せが、家の中から外へと、地続きに繋がっている社会の実現を願ってやまない。
うちだともこ/1977年山口県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社勤務を経て独立。婦人科疾患、周産期医療、不妊治療を中心に取材活動を行う。
あなたの精子提供の体験談を教えていただけませんか?
「精子を提供したことのある方」、「精子の提供を受けたことのある方」、そして「精子提供で生まれた方」の体験談を募集しています。woman@bunshun.co.jp(件名を「精子提供体験談」に)もしくは〒102-8008 東京都千代田区紀尾井町3-23「週刊文春WOMAN」編集部「精子提供体験談」係までお寄せください。文字数制限はありません。取材にご対応いただける方は、匿名でも構いませんが「ご連絡先(メールアドレスもしくは電話番号)」をお書き添えください。
【週刊文春WOMAN 目次】佐藤優が読み解くプーチンの戦争/『ドライブ・マイ・カー』とアカデミー賞/香取慎吾「幸福」を描く/「カムカム」秘話/稲垣吾郎×米澤穂信/窪美澄 最新長編
2022春号
2022年3月22日 発売
定価550円(税込)