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「このままではポリシーのかけらもない無責任な提供者が増え続けるでしょう」とスタリオン氏は予想する。無秩序な個人間精子提供に、何らかのルール作りが必要ではないか。

「この人に依頼したい」レズビアンのカップルにとっての決め手

 レズビアンの長村さと子さん(38歳)は、知人のゲイの男性から精子提供を受け、昨年12月に男の子を出産した。長村さんは性的少数者とその家族が安心かつ健全に暮らせる社会を目指し活動する一般社団法人「こどまっぷ」の代表で、LGBT界で名の知られた存在だ。パートナーの茂田まみこさんと子どもの3人で都内の一軒家で暮らす。

 長村さんは性暴力被害を受けた過去があり、男性に隣に座られただけで体が強張った。だが、ドナーとなった男性とは自然体で話せた。何よりその男性を茂田さんが受け入れてくれたこと、そして将来的に子どもが父親に会うことを希望したときは応じると約束してくれたことが、依頼の決め手になった。

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 筆者はどうしても彼女に会いたかった。前号で登場した生殖補助医療法の発議者の一人である参議院議員の秋野公造氏は、第三者の精子を用いた生殖補助医療の対象を婚姻夫婦以外に広げるのが難しい理由として、「事実婚もレズビアンカップルも選択的シングルマザーも、第三者の精子で子を産んだ場合、子どもの親権者は産んだ女性のみで、仮にその女性が死亡すれば子どもの法的地位が不安定になってしまうから」と説明していた。

 この法案の方向性を巡り、秋野氏と面談を重ねてきた長村さんは、実際に生まれてくる子をどう守っていくのか。秋野氏は関心を寄せていたし、私も彼女の妊娠を知ったときから気になっていた。

 だが、当の長村さんは困惑している。

「生殖補助医療法に関わる議員さんのなかには、LGBTに理解の目を向けてくれる方もいるとは感じています。しかし、子どもの法的地位と言われても、仮に子どもと血縁関係がないパートナーの茂田が養子縁組したら、私から茂田に親権が移るだけ。同性婚を認めたうえで養子縁組し、共同親権を与えない限り、解決はしないのです。

 しかし、生殖補助医療法と同性婚の議論はセットで動いていません。現行の制度でできることがあるとすれば、私が死亡したときの未成年後見人を茂田にするということだけで、すでにその手続きはしています。私たちのような立場を、子どもの福祉のための事前準備をしていない無責任な人とする指摘もありますが、それは違う。やりようがないのです」