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 ある著名な黒人男性ジャーナリストは、今年のアカデミー賞の司会者であった黒人女性コメディアン、ワンダ・サイクスのセリフを引用した記事をワシントンポストに寄稿している。ワンダは子供の頃、母親に「白人が見ているから」きちんと振る舞うように躾けられている。なぜなら「黒人が過ちを犯すと、黒人全体の地位向上を2~3年遅らせてしまう」からだ。

主演男優賞を受賞した黒人男性は、わずか5人

 ウィルはプレゼンターを平手打ちしたにもかかわらず、テニス選手のヴィーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹の父親役を演じた『ドリームプラン』によって主演男優賞を受賞した。

 ウィルを会場から排除せず、さらに受賞させたことについてアカデミー側は批判されているが、とにもかくにも94年の歴史を持つアカデミー賞において黒人男優が同賞を得たのはウィルを含めてわずか5人。主演女優賞を受賞した黒人女優に至っては2001年のハル・ベリーのみだ。ハリウッドにおける黒人俳優の立ち位置を示すデータと言える。

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 なお、ウィルは今回の事件によってヒット・シリーズの最新作『バッド・ボーイズ4』などの製作がすでに保留状態となっている。また、主演男優賞を剥奪される可能性もあるとされている。

©getty

 アカデミー賞から6日後、社会風刺が看板のコメディ番組NBC『サタデーナイトライブ』は、平手打ち事件をもちろん取り上げた。黒人男性コメディアン、ジェロッド・カーマイケルは「この件で1週間持ち切りだった」「もう話したくない」と観客を笑わせながら、最後にそこにはいないオバマ元大統領に向かって話し始めた。

「ヘイ、B、元気?」

「あなたに戻ってきてもらわねば。なぜって、この件について話さないと」

「アメリカは今、癒しが必要なんだ」

 傷付いたアメリカを癒せるのはバラク・オバマのみとするセリフは爆笑を誘ったが、アメリカ人の、わけてもアフリカン・アメリカンたちの心情を捉えていた。

 誰からも愛されてきた大スターのウィルが思いもかけない行動に出た。ラッパーとしてのデビュー後にテレビの人気俳優を経てハリウッド・スターとなった35年間のキャリアを通して常に明るい笑顔、気の利いたジョーク、爽快なアクションでファンを魅了し続けてきた。

 そのウィルが自制心を失ってコメディ・スターに手を上げ、大声で「ファッキン!」と怒鳴り、直後に涙を流しながらのスピーチを行った。完璧だったはずのスターが、すべての弱さを全世界に生中継でさらけ出してしまったのだ。

 この事件をジョークにして語り合っている人々ですら、本音では残念でたまらないのである。