テラさんは藤子不二雄の恩人
――本木さんが演じるテラさんは、穏やかで優しそうな印象ですが、(A)先生の『まんが道』には、藤子不二雄のおふたりを激しく叱責する一面も描かれています。実際は、どうだったのでしょうか。
(A) その話で言うと、テラさんがいなかったら、その後の藤子不二雄は存在していません。
――え?
(A) 僕らがデビューしたばかりの頃、連載を8本も抱えてしまい、富山に帰省中パニックに陥ってしまったんです。
――『まんが道』読者にはおなじみの事件ですね。
(A) ええ、締め切りまでに描くことができず、原稿をほとんど落としてしまい、怖くなって東京に戻れなくなってしまいました。するとテラさんから手紙が届いたんです。失敗したのは仕方がないけど、ちゃんと取り返さなければいけない。もし東京に戻って来なかったら、君たちは漫画家として本当にダメになってしまう。だから東京に出て来いと。
――その言葉で、東京に戻った。
(A) トキワ荘でテラさんに説教されました。償うためには、もっともっと頑張らないといけないぞと。原稿を落とした新人にそこまで親身に言ってくれる人なんて、テラさん以外にいませんよ。胸に響きました。それ以来何十年も、僕らは一度も原稿を落としたことがありません。
――あの時、テラさんが手紙を書いてくれなかったら、その後の藤子不二雄はない。
(A) だから僕と藤本氏は、テラさんに対する感謝の気持ちを忘れたことはないんです。
映画で描かれていたテラさんの苦悩
――『トキワ荘の青春』では、流行に乗り切れず苦悩するテラさんが描かれています。A先生から見ても、そうだったんでしょうか。
(A) 映画のテラさんは、自分が漫画家としてやっていけるかどうか悩み、編集者と衝突して、ちょっと寂しい感じで結末を迎えます。でも、実際は少し違うかな。テラさんは結婚して、家を建てて、そこへ引っ越すためにトキワ荘を出ました。そのときには、『背番号0』とか『スポーツマン金太郎』といった大ヒットも飛ばしていましたからね。ただ、テラさんが絶対に自分を曲げなかったのは本当です。