――作風はもちろん、F先生と(A)先生は性格も対照的なんですね
(A) むしろキャラが真逆だから、そこがフィットしてコンビが長続きしたんだと思います。もし同じ性格だったら、仲違いしてたんじゃないかな(笑)。
綺麗事ではなく、お金なんて関係なかった
――改めて、トキワ荘で暮らしていた5年間を振り返ってみて、いかがですか。
(A) 当時は原稿料が入ると、食べ物よりも一眼レフカメラや8ミリなんかを買って、みんなをよく写してました。そのとき撮った集合写真を見るとね、みんなの笑ってる顔が本当に楽しそうなんですよ。お金はないし、将来売れる保証も何もないんだけど、今トキワ荘にいてこうやってるのが楽しくて楽しくてしょうがない、って顔。素晴らしい時代だったと思います。
綺麗事でもなんでもなくてね、お金なんて関係なかったんですよ。僕らは30円のラーメンを食えれば、それでよかった。それ以上のお金なんか欲しくない。それよりも、ただ漫画が描きたいし、みんなでワイワイやっていたかった。今の状況からすると、三密どころじゃない。毎日こうやって、ぎゃーぎゃー騒いでた。ただコロナのことは別にしても、今はやっぱりさみしい時代だと思います。
人間は、人と触れ合わないと成長しない
――さみしい、ですか。
(A) むずがってる赤ちゃんにスマホを渡すと、きゃっきゃっと喜ぶ。取り上げると、またぎゃーって泣く。つまり、赤ちゃんの頃からずっとスマホで育つわけじゃないですか。実際に集まって人と会話する機会が、少しずつ奪われていっている。むしろ人と会うことを避けたいとすら思うようになる。でも、人間って人と実際に触れ合わないと成長しないんですよ。
――先生がトキワ荘で体験したことですね。
(A) 人と会っていろんな話をしたり、一緒に遊んだり、何かをやることが、人間を育てると思うんです。トキワ荘にみんなが集まってワイワイやっていたことは、その後の僕の人生にとって、ものすごくプラスになりました。僕にとってトキワ荘は、“青春の殿堂”とでも呼ぶべきものなんですよ。
※手塚治虫(「塚」は点あり)
※藤子不二雄(A)(Aは丸囲みA)
(取材、構成:稲田 豊史)