仲間由紀恵の「クレジットにも名前のない役柄」時代
そしてもうひとつの魅力が、主演の仲間由紀恵と阿部寛が演じるふたりのキャラクターに尽きるだろう。
仲間由紀恵はそれまで、『踊る大捜査線 歳末特別警戒スペシャル』(97年)や『神様、もう少しだけ』(98年)などにドラマ出演があったものの、映画『リング0~バースデイ~』(2000年)では貞子役、『トリック』の前年に公開された映画『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』では怪獣に襲われミイラになってしまうという、クレジットにも名前のない役での出演と、決して名が知られた女優ではなかった。
デビューから5年が経っていた仲間は『トリック』がドラマ初主演作だったのだ。しかし、本人は本ドラマの撮影の途中で自身がドラマ初主演だと気が付いたほど、演じる際のプレッシャーはなかったという。ただ、直前までサスペンスだと聞いていたのにコメディだったことに戸惑い、最初は台本通りにしか動くことができなかったという。
じつは“イメージと違う”第1話…“飛ばした”演技の阿部寛に戸惑う仲間由紀恵
現在では『トリック』はおふざけ満載のコメディドラマのイメージが強いが、その放送第1話を見直してみると、山田奈緒子というキャラは意外なほど暗い人物として描かれていることに驚く。
撮影当初の仲間は上田次郎役の阿部寛の“飛ばした”演技についていくので精一杯で、阿部本人に「どうすればいいのか困った」と打ち明けたという。阿部が作った上田のキャラクターが台本を読んで想像していたのとあまりに違い、自分が真面目に芝居をしているのに阿部の演技は本気でふざけてるのかと思ったほどだった。
“苦悩”する阿部寛、“精一杯”の仲間由紀恵を引っ張ったのは…
しかし一方の阿部寛も、その真面目さゆえに上田次郎を演じることにナーバスになっていた。
初のドラマ主演の仲間由紀恵と演じるということで、自分が引っ張っていかなければという思いが強く、また当時は二枚目俳優のイメージが定着していたため、初の三枚目の上田次郎役で「俺はこのドラマに賭けるんだ」と撮影前から口にしていたという。
そんな山田奈緒子×上田次郎コンビのキャラクターを作り上げたのが、『トリック』の第1エピソード「おっかーさまぁ!」でおなじみの「母之泉」(第1シーズン1話~3話)を演出した堤幸彦である。
『トリック』以前に堤が演出した『金田一少年の事件簿』や『ケイゾク』は準備に準備を重ね、ドラマ設計を念入りにして撮影に挑んだものであったが、『トリック』の演出はほとんど準備をせずに撮影に挑み、現場でアドリブ的にセリフを追加していくものだった。