山田の「エヘヘヘ」、上田の無表情…次々と生まれるアドリブ
山田奈緒子の「エヘヘヘ」という笑いや、上田次郎の無表情の困り顔などは撮影の現場で作ったものだ。
阿部寛は、撮影が始まって間もない「母之泉」の回で、まだ上田次郎のキャラクターの振れ幅を探っているなか、教団施設で上田が机を飛び越えるシーンでふと「坂上二郎風で飛び越えよう」と思い立ったという。これが『トリック』での阿部寛曰く「挑戦だった」と言う初のアドリブであった。
また、スピンオフ作品にまでなった人気キャラ、刑事矢部謙三を演じる生瀬勝久は、『トリック2』の第2エピソード「100%当たる占い師」(第2シーズン3話後半~5話)で、「会話シーンを横山やすしでやってください」と堤から言われたという。
ちなみに矢部謙三がカツラなのは、『トリック』と並行して出演する舞台で坊主にしなければならなかったために、じゃあカツラにしましょうという苦肉(?)の策だった。結果としてあの伝説のキャラクターが生まれたのである。当時の生瀬はプライベートで街を歩いていても、まず頭から見られたという。
そして、矢部刑事の初代部下である石原達也を演じた前原一輝は、撮影前には自身の演じる役がプロファイリングが専門の優秀な刑事で、上司の矢部とはドラマ『相棒』のようなシリアスな関係だと思っていたという。しかし、標準語で書かれたセリフをすべて覚えたあとの撮影3日前になって、堤から「怪文書」と書かれたメールで「広島弁で」と指示が。慌てた前原は『仁義なき戦い』をまとめて借りて、デタラメの広島弁を習得したという。
この初代部下の石原と矢部謙三のコンビは、主人公の山田×上田コンビと併せて、『トリック』第1・2シーズンの四輪駆動ともいうべき大きな魅力であった。
こうして『トリック』の魅力的なキャラクターは撮影現場で堤がセリフやアドリブを追加し、俳優たちが柔軟に演技で応えて作られていったのだ。
オールロケの過酷な撮影…「当時は2、3時間しか眠れなかった」阿部寛
そのほかにもまだまだ『トリック』の魅力は尽きない。地方の因習を匂わせる数々の村や離島といった横溝正史へのオマージュのほか、ペイズリーや観光ペナントなど微妙に昭和な小道具が画面に散りばめられた画作り、記憶の片隅からテレビ画面(当時はほとんどの家がブラウン管)に引きずりだされる、忘れかけていた芸人やタレントたち。ドラマ全体にはそこはかとなく気恥ずかしさが漂っていた。
また、ドラマ全編をオールロケで撮影しているのも『トリック』の特徴だ。
ロケ撮影はかなり過酷だったらしく、2000年7月7日に初回放送分の撮影のクランクインはなんと6月21日。「母之泉」の第1話を撮り終えると、そこで現場を止めて東京へ戻り編集の仕上げをして、また現場に戻って続きを撮影したという。
キャストや撮影スタッフたちも撮影当時は睡眠時間も少なく、改めて今「母之泉」のエピソードを見返すと夜のシーンでは仲間由紀恵が鼻声でかなり眠そうなのが窺える(母之泉のロケ地は宿泊施設だったので、スタッフ皆で寝泊して合宿のような雰囲気だったという)。