北海道警の刑事でありながら、覚醒剤の使用に加えて営利目的の販売で「3、4年で1億円以上」も荒稼ぎしていた稲葉圭昭(68)。懲役9年の実刑判決を受け、長年の服役経験もある“悪い奴”だ。出所後の2011年、その破天荒すぎる半生を著書『恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白』として出版。2016年には、綾野剛主演の映画『日本で一番悪い奴』にもなり、日本全国に知れ渡った。
稲葉氏はヤンチャな高校生活の傍ら、幼い頃から続けていた柔道では全国3位という実績をつくり、道警の採用試験を突破。その後に自ら志願して刑事になった。
「協力者(スパイの頭文字をとりエスと呼ばれる)を作ってそこから情報を取れ」
機動捜査隊所属時に上司からこう指示された稲葉氏は、ヤクザや薬物中毒者などの事件に絡む多種多様なエスと付き合い始める。暴力団員らとも濃密な付き合いを重ねることが増えていった。
稲葉氏は刑事としての実績を上げていったが、令状を取らない強引な違法捜査や、エスとの濃密な付き合いが、稲葉氏の倫理観を歪ませていくのだ――。
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押収した100丁以上の“首無し拳銃”とは
稲葉氏はエスからの情報をもとに様々な事件を捜査したが、特に結果を残したのが拳銃の摘発だ。
当時、1992年の金丸信自民党副総裁に対する銃撃事件などで、拳銃摘発は全国の警察の最重要課題だった。道警でも1993年に初の専門部署となる銃器対策室が発足。稲葉氏は初期メンバーに抜擢された。稲葉氏が刑事として最も脂の乗った40歳の頃だった。
「俺は逮捕されるまでに100丁以上の拳銃を押収した。俺を超える数を摘発した人はいないだろうね。でもね、令状取ったり職質かけたりして正規の手続きで押収したのなんて6丁か7丁程度。周りもみんなやっていたけど、大部分はエスの協力で入手した『首無し拳銃』ですよ」
「首無し」とは所有者が不明、という意味だ。押収しても誰のものかわからないため、逮捕者はいない。密輸ルートなど事件の全容解明には繋がらないが、国内の拳銃の数が減ること自体は治安維持に役立つため、大きな実績になった。
しかし、その押収方法は協力者から拳銃を金で買うなどした“ヤラセ捜査”ばかりだったという。