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2022/04/19

genre : ライフ, 歴史, 社会

歌川広重の版画にも描かれた「おかげ犬」の姿

 犬にはしめ縄でできた首輪がされ、首輪から吊るされた巾着袋には道中の餌代、船賃、賽銭などとともに参宮するという趣旨や住所が記載された木札が入っていて、道行く人がおかげ犬の姿を見ると、忠実な犬として大切に扱い、餌や寝所を与え、伊勢神宮のほうへ連れて行ったとのことだ。

 本当にそのようなことができるのかと不思議にも思えるが、当時の多くの記録にも残されている。たとえば歌川広重の版画「伊勢参宮宮川渡しの図」や「東海道五十三次四日市」などで描かれた参拝客の中に、しめ縄の首輪を巻く白い犬の姿が登場している。

 参宮した犬には竹筒に入ったお札が与えられ、札を受け取った犬が復路を帰っていく。巾着袋のお金を盗む者もなく、逆に信仰心が強いと、お金を足す人までいたというから驚きである。

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明治時代発令「畜犬規則」で地域犬が廃止

 この江戸時代の麗しい習慣は残念なことに明治時代になると廃れてしまう。明治6年に東京府で発令された「畜犬規則」が発端だといわれている。実は江戸時代の犬には特定の飼主はおらず、大名屋敷などで飼われていた狆などの愛玩犬を除いては、地域内で放し飼いにされ、地域で育てるという「地域犬」だった。「畜犬規則」では犬はきちんとした飼主を定め、飼い犬とされ、それ以外の犬は野良犬として駆除されていったのだ。

 では現代の伊勢神宮で果たして犬による参拝はどのようになっているのだろうか。結論から言うと、おかげ犬という制度は健在である。本殿に行ってお参りすることこそできないが、犬を連れた参拝客は内宮、外宮近くの衛士見張所に犬を預けることができる。おかげ横丁ではしめ縄の首輪が売っていて、この首輪を買って犬につけると、クーポン券や「蘇民将来」という厄払いができる木札がもらえるなど多分に商業ベースではあるが様々な特典がある。