ペットブームと言われて久しい。一般社団法人ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」によれば、2021年における全国の飼育頭数は、犬が710万6千頭、猫が894万6千頭である。ちなみに2013年では犬の飼育頭数は871万4千頭と猫の840万9千頭を上回っていた。しかし2014年に逆転して以降は、猫が飼育頭数を漸増させていくいっぽう、犬は減少が続いている。

 だがコロナ禍で自宅での滞在時間が増え、都心居住から郊外に広い家を求める傾向が強まる中、新規の飼育頭数で犬は2019年の35万頭から20年41万6千頭、21年も39万7千頭と復活の気配が出てきている。

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伊勢神宮にお参りする「おかげ犬」

 犬は猫とは異なり、飼主に忠実で、飼主の愛情表現にもストレートに応えてくれる。ときには飼主を危険から守る、トラブルを知らせるなどの役目を果たす。またトレーニングを受けて、飼主の意のままに動くなど、人と犬との関わりの深さはこれまで多くの物語を生んできた。

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 そうした忠実な犬の行動として、日本で語られるのが「おかげ犬」の存在である。時は江戸時代、多くの庶民が伊勢神宮に参拝する習慣があったことはよく知られている。

「伊勢に行きたや、伊勢路が見たや、せめて一生に一度でも」

 伊勢音頭で唄われたように、江戸時代には数度にわたる、大群衆によるお参りブームがあり、1830年には430万人が訪れたという記録がある。豊作も商売繁盛もお伊勢様の「おかげ」ということでおかげ参りに通う人が大勢いたのだ。このおかげ参りは「抜け参り」とも呼ばれ、特に計画を立てずにある日ふらりとお参りに出かける人が後を絶たず、そうした行為は特に非難されることもなく、風習として認められてきたというから当時は現代と比べて世の中が鷹揚だったともいえる。

 そんな中、体が不自由な人や、高齢になって長旅がきつくなった人などが、犬に代理として伊勢神宮にお参りにいってもらう「代参犬」の習慣ができ、これが「おかげ犬」と称されるようになった。伊勢神宮まで、当時の江戸からは約15日、大阪からも5日ほどかかったというから、犬にとっても長旅だ。家人や雇人などに託して、犬が代理として参拝してお札をもらって帰るのが一般的とされたが、中には犬だけで長い旅路を経て伊勢神宮に参ることがあったという。