斎藤 現場で働かず権力だけふるうマネージャーを設けず、1万4000人以上ものスタッフが自律的に働く在宅ケア組織ですね。
ブレグマン はい。マネージャーもいなければ、ノルマもなし。知識と経験の豊かな看護師などのスタッフからなる最大12名のチームと、チームごとに割り当てられた独自の予算やオフィスがあるだけ。スタッフ自身のモチベーションをもとに働いてもらうほうが、より充実したサービスを提供でき、患者とスタッフともに満足度が高いのです。この組織は2006年の設立後、急速に成長を遂げ、オランダの「最優秀企業」に5回も選ばれました。創設者は私の知人ですが、成功のカギは、人間が自律的に動き、協力し合い、人生にとって意味のあるものを生みだす存在だと信じたこと。人間の本質に対する見方を変えただけで、全部が上手くいったのです。
斎藤 この話題は、文化人類学者デヴィッド・グレーバーが『ブルシット・ジョブ』で喝破した「クソどうでもいい仕事」という考え方にも関連しますね。今回のパンデミックでは、看護師や介護士といったエッセンシャル・ワーカーの人たちが、社会の維持に貢献しているにもかかわらず過小評価されていることが明白になりました。その一方で、社会の役に立たない、金儲けのためだけの「クソどうでもいい仕事」をしている人たちは安全な家でリモート・ワークしていたわけです。
ブレグマン 2020年の春、各国の政府が、社会の維持に本当に必要な仕事、つまりエッセンシャル・ワークにあたる職種をリストアップしましたが、このリストに管理職や銀行家、会計士などは載っていません。「クソどうでもいい仕事」をする彼らがストライキを起こしても、資産家や大企業に私たちの富が奪われる場面が減るだけですから。
仕事の本質とは?
斎藤 その流れで、日本の労働者について話をすると、私たち日本人は明らかに働き過ぎです。私は労働時間の大幅な短縮が必要だと考えていて、週休3日制を提唱しています。
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斎藤幸平氏、ルトガー・ブレグマン氏による「『性善説』が世界を救う」の全文は「文藝春秋」2022年5月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています。
「性善説」が世界を救う