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「日本人は明らかに働き過ぎ」斎藤幸平とルトガー・ブレグマンが語る〈クソどうでもいい仕事〉から自由になる方法

source : 文藝春秋 2022年5月特別号

genre : ビジネス, 社会, 働き方, 企業

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「新自由主義時代」の終わり

斎藤 戦争もそうですが、「人間は自己中心的。他者を信じることはできない」という誤った人間観が、争いをエスカレートさせます。そうして抑圧的で不平等な社会の制度が構築されてきたわけですし、そこからプーチンやトランプのような権力や富に固執する、残虐な独裁者や金持ちが生まれてしまった。

 ブレグマンさんによる性悪説への丁寧な反証には、人間を信じ、ありうるべきユートピアの姿を描く力があります。世界の現状は厳しいけれど、それまで当然だと思われていた“常識”が崩れる危機の瞬間だからこそ、新しい前提をもとに未来を構想する必要性も高まっています。

ブレグマン 実際、私たちを取り巻く現実は劇的に変化しています。突然起こったコロナ禍をきっかけに、この事実に目覚めた人々も大勢いるようです。経済エリートたちが読んでいる英『フィナンシャル・タイムズ』紙ですら、社説(2020年4月)でUBIを支持し、富裕層への大幅な課税の必要性に言及しました。ほんの10年前には、誰も想像できなかった「事件」です。

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『隷属なき道』『Humankind』など話題作を続けて上梓したルトガー・ブレグマン氏 ©StephanVanfleteren

斎藤 ええ、コロナ禍では、これまで不可能と思われていたことが可能だということが判明しましたね。たとえば、現金の一律給付やロックダウン。国家が「神聖な」市場に介入したわけです。みんなの命を守るために、政府も市民もお互いを助け合い、大胆な行動変容を起こしたことは、歴史的出来事だと思います。

ブレグマン 私たちは、いわば「新自由主義時代」の終わりに立っているのです。個々人に好きなことを追求する自由さえ与えれば、社会に無限の経済成長と進歩がもたらされる、そんな誤った思想が支配した時代です。実際には不平等がはびこり、コロナ禍でそれが一気に深刻化し、資産家たちは富をかつてない規模にまで増やした。未来の歴史家が、2020年が決定的な節目の年だったと断じたとしても、私は驚きません。

人間は善良で利他的である

斎藤 もちろん、ここで賢明な読者は疑問を感じるかもしれません。「人間は本来、互いに助け合う利他的な存在だ」と言うけれども、危機においても富の獲得に夢中になる、強欲な超富裕層の存在はどう説明するのか――。あるいは、プーチンのような存在をどう考えるのか、と。