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キリング・ザ・メッセンジャーとは何か?

――横田さんは1年間ユニクロに潜入していたわけですが、望月さんが1年潜入取材できるとしたら、どこへ行ってみたいですか?

望月 そうですね……。私は武器輸出問題をやっているので、ロッキード マーティン社に入ってみたい。守秘義務を徹底されるでしょうけど。

横田 ユニクロも入ったとき、守秘義務を守るように一筆書かされました。僕が辞めてからはさらにCOC(企業行動規範)が厳しくなって、辞めるときにも守秘義務を守ると書かされるようになったらしいです。『ユニクロ潜入一年』にも出てくる、柳井さんの温かい言葉が詰まった「部長会議ニュース」も、僕が働いていた時は誰でも読めましたが、今は店長しか読めなくなったようです。僕が一番の愛読者だったのに!

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望月 厳しくなったんですね。

 

横田 これって、組織の内部で不正が行われていても、伝えることができないようにする締め付けとも通じますよね。アメリカには“Killing the Messenger”(よくないことを知らせてくれた人に八つ当たりする)という表現があり、その言葉をそのままタイトルにしたジャーナリズムの学生が必読という書籍まであります。つまり、不正を伝えようとする人間を消す。僕たちジャーナリストや内部告発者が出ないように徹底するという考え方ですね。でも、そもそもこの考え方っておかしいんですよ。何か間違っていることがあるなら、その原因を正さなければいけない。

望月 取材者を排除するのではなく、問題の根幹に向き合って改善しようとするのが本来の姿ですよね。

横田 そうです。いかに取材されないようにするか、外に情報が出ないようにするかに力を入れるより、組織自身を変えんかい、って話なんですよ。ヤマト運輸だったら、もっと労働者の話を聞いたれよ、ドライバーの話を聞いたれよと。企業側が聞かないから、ドライバーが僕のところに内部の情報をくれるんですよ。ユニクロもそうです。

横田さん提供 『Killing the Messenger』

その質問を契機にちゃんと考えろ、って話

望月 ZARAもH&Mも、かつて横田さんのようなジャーナリストやNGOの捜査、告発があって問題化したことがありました。ただ、横田さんが取材した企業のように「なんでお前らが入ってくるんだ」という対応ではなく、非常に重いこととして受け止めて改善を行ったんですよね。

横田 そうです。

望月 それは根本に立ち返ったということだと思います。横田さんの作品を読んで思ったのは、これはユニクロを悪者にするだけの本ではないということです。むしろ、ユニクロが成長していくために彼らが考えなければいけないことを指摘している面があって、そこが横田さんのお仕事の価値だと思います。

 

横田 ありがとうございます。望月さんのお仕事も同じだと感じています。

望月 私も単純に自民党を潰したいとか、安倍政権は全部ダメだとか言いたいわけじゃないんです。モリカケ問題のように、ある面に関しては納得のいかないことが多々あるから、もし間違いがあるとしたらそれを指摘して、根本に立ち返っていただきたいと思っているんです。

横田 質問する方が悪いんじゃなくて、その質問を契機にちゃんと考えろ、って話ですからね。

望月 私たちの仕事はそのためにあるんですから。

 

バッシングは気にならないですか?

横田 望月さんは、あまりバッシングは気にならないですか?

望月 バッシングはもうしょうがないですね。脅迫電話が来ると、身の危険もあるし、会社にも迷惑をかけるので心配ですが、ネット上のバッシングは私がこういう質問を続けているからにはしょうがないという諦めがあります。

横田 ネットではいろんなこと言われますからね。僕はユニクロの本を書いたら、「誰に金もらって書いてるんだ?」って書いてありました。「読者からだよ!」って心の中で突っ込んでいましたけれど(笑)。