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吉野家「生娘シャブ漬け戦略」で露呈した“マーケティング業界”のお寒い事情

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 もちろん、そういう先達が、自らの経験を伝えるような場も必要だろう。だが実務家は、あくまでも実務家であり、研究者でも教育者でもない。今回の「生娘シャブ漬け発言」も、実務家が「大学で学問を教える」ということを理解していないまま教壇に立った結果だともいえる。

 実務家として一山当てた一部のマーケターは、大学以外の場にも数多く出没する。それはセミナーやイベントだ。少し調べたら、すぐにわかると思うが、日本では、マーケティング、特にデジタルマーケティングに関するセミナーやイベントが、非常に多く開催されている。だが、数多く開催されてはいるものの、登壇者の顔ぶれは、いつも変わらない。これが次に残念な点である。実務家として一山当てた一部のマーケターたちが、ある種「タレント化」してしまっているのだ。

 有名マーケターを登壇させれば集客に困らない――セミナーやイベントを主催する企業は、彼らを囲い込むのに必死だ。たとえば自社イベントにいつでも登壇できるように「顧問」や「フェロー」といったポジションを与えている企業も少なくない。

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有名マーケターによる「私塾」や「サロン」も

 近年では、そういったマーケターたちだけでなく、彼らを取り巻くファンごと抱え込んでしまうビジネスも行われている。たとえば「私塾」という形で、マーケター個人のプライベートな「サロン」を用意し、マーケターを抱え込むだけではなく、彼らを取り巻くファンたちから「参加費」を取るなど。こういった取り巻きたちが数多くいれば「集客を期待できるマーケター」として、あちこちのイベントや講演に派遣することもできる。こうして有名マーケターたちは、日本各地で開催されるセミナーやイベントに、メインスピーカーとして招かれ、登壇する。

 今回「生娘シャブ漬け発言」が飛び出したのは早稲田大学が主催する社会人向け講座だが、おそらく、今回の講師陣の人選にも、こういった実務家として一山当てたマーケターたちを抱え込んでいる企業が絡んでいると思われる。早稲田大学は、講師陣の実務上の実績は把握していても、実際にどういう人物なのかを知らないまま教壇に立たせてしまったのかもしれない。