「田舎から出てきた右も左も分からない若い女の子を無垢、生娘のうちに牛丼中毒にする。男に高い飯を奢ってもらえるようになれば、絶対に(牛丼を)食べない」
筆者も長年マーケターとして働いてきたが、これが大学の講義中に講師から発せられた言葉であるとは、にわかに信じがたい。
この発言は今月16日、早稲田大学の社会人向け講座である「デジタル時代のマーケティング総合講座」にて、講義担当をしていた牛丼チェーン「吉野家」の伊東正明常務取締役企画本部長(当時)が「若い女性をターゲットにしたマーケティング施策」について講義した際に発せられたものだ。
同氏は他にも、「若い女性をターゲットにしたマーケティング戦略」を「生娘をシャブ漬け戦略」と表現したり、男性客についても「家に居場所の無い人が何度も来店する」といったような趣旨の発言をしたという。
今回の騒動は、P&Gでマーケティングの実務家として名を馳せ、企業の役員としても、また個人としても有名なマーケターが起こした舌禍事件として、各メディアに報じられている。
だが、誤解を恐れずに言ってしまうと、こういった「炎上事案」は、何も今に始まったことではない。特に近年、SNSが広く使われるようになり、ちょっとした発言や行為は、すぐに誰かに拾われ、拡散されるようになっている。そういう点では、この元常務取締役の「生娘シャブ漬け発言」も、ある意味典型的な「炎上事案」であり、特に珍しく語られるようなものでもない。
日本の残念なマーケターたち
だが、ここには、日本のマーケターの残念な点がいくつも見え隠れしている。
まず残念なのは、日本において「マーケティング」が、未だに「学問」ではなく「経験」で終わってしまっているということだ。「マーケティング」は実務で用いられるからなのか、教える側が実務家(あるいは元実務家)ばかりになってしまっているのが現状だ。
もちろん、日本でも、海外のようにきちんと体系立った「学問」として「マーケティング」を教えている教育機関、ならびに教育者は存在するし、「学問」としてマーケティングに向き合っている研究者もいる。だが、その絶対数が非常に少ない。
結果的に大学における「マーケティング」の授業は、実務家として、自らのキャリアで一山当てたマーケターが、その「成功事例」を話す場になってしまっているのが現状だ。