マーケターが出世ではなく「タレント」を目指す理由
一部の、実務家として一山当てたマーケターたちが「タレント化」していくのには理由がある。それは、日本のマーケターは、ある程度出世すると、そのキャリアが完全に頭打ちになってしまうことが多いからだ。これが三つ目の残念な点である。
日系企業の多くは、マーケターのキャリアに対する「あがり」ポジションを用意していない。何年マーケターとしてキャリアを積もうと頑張っても、せいぜい部長職レベルで止まることが多く、そこから上、例えば役員などへの道が、ほとんど見えない状態に陥ってしまう。
近年、日本企業でもマーケティングを重視するという意味合いで「CMO(最高マーケティング責任者)」や、さらにデジタルマーケティングに特化した「CDO(最高デジタル責任者」といった役職を用意するケースが出てきたが、その多くは名ばかりのものであり、待遇も名前の割には大したことがない。
そこで実務家として一山当てたマーケターたちは、自らの実績を外にアピールし「タレント」になることを目指す。前述のように、日本では「マーケティング」は「学問」ではなく「経験」として考えられていることが多いため、実務家としての実績をアピールすることで、注目はしてもらえる。
そのためマーケターは、自らの実績を「盛る」のだ。セミナーやイベントで語られる話も、大抵は「成功事例」という名の過去の実績を、少し尾ひれをつけて話している。
ちなみに彼らの「成功事例」は「前職」、もしくはそれよりも前に所属していた企業での体験であることが多い。その理由は大きく二つある。ひとつは「様々な事情があって現職における話はできない」から。そしてもうひとつは「これまで在籍していた企業の中で、最も知名度の高い企業名を出す方がセミナーの集客につながるから」である。
実際、日本のマーケティング関連のセミナーやイベントの登壇者は「元✕✕・◯◯氏」のように、過去所属していた企業名を前面に出していることが多い。だが「元」はあくまでも「元」でしかない。そもそも事例として古いものになっていることが多いし、名前を勝手に使われている企業にとってもいい迷惑でしかない。これもある意味日本のマーケターの残念な点のひとつだろう。
そういえば、いつもなら、この手のマーケティングに関する炎上事案が発生すると、有名マーケターがこぞって「何が炎上事案を引き起こしたのか」「この炎上事案が、企業に対してどれほどのインパクトをもたらしたのか」「企業として、どのように対応すべきだったのか」といったコメントや意見を、SNSなどで大いに語るのだが、今回の件について、マーケターたちは、まるで示し合わせたかのように沈黙を守っている。「デジタル時代のマーケティング総合講座」で起こったことであるにもかかわらずだ。
日本のマーケティング業界の闇は深い。