「食べるために動物を殺すことを可哀相と思ったり、屠畜に従事する人を残酷と感じる文化は、日本だけなの? ほかの国は違うなら、彼らと私たちでは何がどう違うの?」

 そんな疑問を抱いたイラストルポライターの内澤旬子氏は、アメリカ、インド、エジプト、チェコ、モンゴル、パリ、韓国、東京、沖縄……と、世界各地の屠畜現場へと徹底取材を行った。

 ここでは、そのもようをまとめた著書『世界屠畜紀行』(角川文庫)の一部を抜粋。「安い」「早い」を支えるアメリカのシステマチックな屠畜現場を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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※本稿は取材時(2000年代前半)の情報をもとに執筆されたものです

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モウモウ言ってた牛が1時間半で出荷OKに

 カット場は巨大で、目が回りそうだった。とんでもない速さでたくさんの人たちが電鋸やナイフを使い、肉を切り分け、内臓を洗っている。ベルトコンベアの流れに沿って進んでいくと、肉や内臓はどんどん小さくなっていって、いつの間にかパッキング工程になっていた。コンピュータの指示通りにパッキングされ、箱詰めされ、宛先のシールを貼られ、巨大な冷凍倉庫に積み上げられていく。5階建てのビルくらいの高さがあっただろうか。この倉庫の中はほとんど無人で、「注意」と書いてある日本製のロボットが棚にパッキングされて流れてくる箱をすいすいと積んでいき、また引っ張り出しては倉庫の先にあるトラックにどんどん積んでいく。行き先ごとに判別され、積み込んでいるとのこと。

 巨大な冷凍トラックたちは、外から見るとちょうどお尻を工場の一番はじっこの壁につけてずらりと並んでいて、積荷が終わると、それぞれの行き先に向けて出発していく。映画『チャーリーとチョコレート工場』(ティム・バートン監督)のウィリー・ウォンカチョコの出荷シーンとまったく同じだ。

©iStock.com

 モウモウ言ってた牛が額を撃たれてからきれいに切り分けられて、行先シールのついた箱に詰められ、出荷OKの状態で冷凍倉庫に収まるまでの時間は、たったの1時間半。1時間で300頭、1日で4700頭の牛をたった1ラインでつぶすのだ。すげええええ!!  

 かたや、芝浦で、3ライン使って1日の上限処理頭数は430頭(2004年3月までは2ラインで350頭だった)。牛が枝肉になるまでで50分かかり、内臓すべての処理にはさらに1時間半はかかる。BSE全頭検査の結果が出るのに6時間かかるから、出荷は必ず翌日まで待たなければならないし、翌日の出荷前に細かく切り分けるなどの仕上げの処理時間まで入れたら、実作業だけでも4時間近くはかかっている。