台風の夜は、宿泊価格を徹底してコントロール
私が勤めていたホテルは、当時羽田空港近辺にもあり、飛行機を利用する客に人気があった。このホテルの支配人は徹底した価格コントロールをする方で評価が高かった。
東京地方に台風が近づくとホテルは満員になる。出張や旅行などの飛行機が欠航して足止めをくった客があわてて空港周辺のホテルを予約するからだ。彼は天気予報をつぶさにチェックしながら、飛行機の欠航発表が始まると、宿泊料を一気に引き上げ、安売りには一切応じない。しかもなかなか全部の部屋を売らずに、周辺に泊まれるホテルがなくなり、焦り気味の客が必死に電話してくる頃に、高い価格を提示して予約をとっていた。まさに需要と供給のマッチングをにらみながら一日の売上が最高になるよう調整していたのだ。
またどんなに予約が順調であっても2、3室は必ず空き部屋をとっておくのも戦略だった。ホテル関係者やVIP客から突然泊まりたいと連絡が来たときのために残しておくというのが基本的な理由だが、さすがに夜11時すぎになるとそうした対応が必要になる可能性は低くなる。さてここからが勝負だ。
フロントにふらりとやってくる客が“ターゲット”
当時はまだネット予約が少ない頃だったので、ホテルのフロントにふらりとやってきて「泊めてほしい」と言ってくる客が多かった。これを業界ではウォークインと称していた。このウォークイン客に的を絞るのだ。
一番の“ターゲット”は、緊張顔で、彼女を連れてオズオズとウォークインする男だ。
「あ、あの部屋はありますか」(きたきたw)
「お泊りでございますか」
「あ、はい。ふ、ふたりで1泊」(だよねー)
「おまちください。ただいまお調べします」
ここでちょっと時間をかけるのがコツだ。早く部屋に入りたい気持ちを募らせるのだ。
「お待たせしました。良いお部屋がございました。デラックスダブルのお部屋をご用意できます」
「あの、値段はどのくらい?」
「1泊2万5000円です」(ここは毅然と言うのがコツ)
「えっ、いや、あの」
「今夜はこのお部屋だけになってしまいますが、よいお部屋ですよ」(わざと彼女にも聞こえるような声で言う)
「あ、わかりました。はい」(ディールダン!)
たいていの男はここで値切ったりしないし、ましてやほかのホテルに行こうや、となることはない。