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「なぜ朝ドラの兄は“聡明で優しい”から“ダメ兄”になったのか」NHK『ちむどんどん』で賛否渦巻く「働かないニーニー」が背負う“大事な役割”とは

2022/05/09
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ときめく“正統派兄”たちの軌跡 千葉雄大、小出恵介…

『梅ちゃん先生』の場合は、ヒロイン・梅子(堀北真希)が「松竹梅の一番下・落ちこぼれ」キャラであることの対比として、優秀な姉・松子(ミムラ/現:美村里江)と兄・竹夫(小出恵介)が登場する。しかし、竹夫は医師を目指していたが、親が敷いたレールに乗る人生に疑問を抱き、退学、家出、起業と、ときに胡散臭い時期も経て、波乱万丈な人生を歩んでいく。

『おひさま』の長男と同様に人気が高かったのは、『わろてんか』の兄(千葉雄大)。帝国大学薬学科の学生で、優しく、学業優秀で、将来は家業を継いで、自身と同じぜんそく患者を救いたいと願っていたものの、若くして亡くなってしまう。しかし、死後、論文が注目され、家業の危機を救うきっかけになるというオマケつきだ。

 そんな中、少々異色なのは、『花子とアン』で、勉強嫌いで学校をやめた兄(賀来賢人)。はな(吉高由里子)の読み書きの才能を信じ、貧しい境遇ながらも、はなを女学校に通わせようと必死な父に反発し、はなに嫉妬心を抱いていたが、後にはなの息子や養子を可愛がるようになり、最終的に父とも和解を果たす。

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 朝ドラヒロインの兄たちは、ときにこじらせ、迷うケースもあるものの、総じて「長男」という重荷を背負い、親の希望を汲んで、家のために真面目に実直に生きようとするキャラが多かった。

 ただ、『純と愛』は、ダメ兄の先駆けだった。プレイボーイで女性とのトラブルの処理をヒロインに任せてばかりで、長男として決断を迫られることをひどく嫌うチャランポランな兄(速水もこみち)が登場していた。

「朝ドラっぽくない兄だな」と眺めていたが、その後はやはり“正統派兄”の登場が増えていった。

『カムカムエヴリバディ』の初代ヒロイン・安子(上白石萌音)と兄・算太(濱田岳)(NHK公式サイトより)

 そんな中、『カムカム』『ちむどんどん』の“ダメ兄”続きは、やはり珍しい。

 なぜ今、「ダメ兄」なのか。一つには、「ヒロイン至上主義」の物語が減っている中、かつてはヒロイン自身が直撃した壁や、巻き起こしていたトラブルを、兄が運んで来る役割を担っている部分があるだろう。