「I'll be back」――玄関に残された不気味な予告は、現実となった。退会を巡るトラブルはやがて、金づちとたがねを手にした凶行へとエスカレートする。講師の指を奪ったその瞬間、何が起きていたのか。
そして事件後、教室は崩壊し、彼女は職を奪われた。平成28年、東京で起きた事件のその後をお届けする。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全2回の2回目/最初から読む)
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玄関ドアに貼られた「怪文書」
その後、高橋は前言を翻し、〈やっぱり口頭では受け付けることができない。内容証明で退会通知書を送ってほしい〉というメールを送ってきた。
バレエ教室側はその要求に従った。ところが、今度は〈退会した者が押し掛ければ、警察を呼ばれることもあり得ますよね。でも、それぐらいのことをやっても、すぐに出て来られる。オーナーや講師の自宅に行くことも考えられますよ〉などという脅しのメールを送ってきた。
オーナーは弁護士に相談。「こういう人間は文面でやり取りしても埒が明かない。言葉尻を捉えて反論されるだけ。一切無視でいい」とアドバイスされ、何も答えなかった。
すると2カ月後には〈自分の行為の何が問題で退会処分になったのか、まったく理解できない。自分としては退会したと思っていないので、自粛期間が過ぎたら、また通います〉という一方的なメールを送ってきた。
オーナーは警察にも相談したが、「まだ何も起きていないなら、何もすることはできない」と言われただけだった。
そんな中、公開していないはずの里美さんの自宅の玄関ドアに《I'll be back》の文字と、中指を立てた絵が描かれた紙が張られるという“事件”が起こった。
