憲法改正案のもう1つの柱は首相の任命権を大統領から議会に移すことです。これにより大統領の権限を縮小します。これも、自分のような絶大な権力を持った大統領が誕生しないようにという仕掛けです。
これで、プーチン大統領は、大統領を辞めた後、自分と同じような権力者が生まれない仕組みを作ります。では、プーチン氏の権力はどうなるのか。大統領の力が弱まり、議会の力が強くなれば、議会を牛耳ればいいということになります。
現在プーチン大統領の与党は「統一ロシア」という政党です。来年に予定されている下院議員選挙で統一ロシアが過半数を獲得し、大統領を終えた後は与党の党首に就任するという筋書きです。
これなら議会でプーチン党首が力を発揮し、権限が縮小された大統領をコントロールできるというわけです。いわば「院政」を敷く布石と考えられています。
プーチン大統領は、憲法改正案を発表した後、第二次世界大戦に参加した元兵士たちと会談しました。その際、元兵士から「憲法改正では大統領の任期を制限する規定を撤廃してほしい」という要請を受けました。要は長期政権を続けてほしいという希望ですね。ゴマすりだったかも知れません。
これに対しプーチン大統領は「国家指導者が権力移譲の条件を整えることなく、次々と死亡するまで権力の座にとどまった1980年代半ばの状況に戻るのはよくない」と発言しました(モスクワ発共同の記事より)。指導者の退任規定がなかったソ連時代、ブレジネフ、アンドロポフ、チェルネンコと3代にわたってトップが在職のまま死亡したことを指しているのです。
ここはプーチン大統領風の美学とも受け取れますが、現代版の「院政」が実現しようとしています。(2020年1月30日「週刊文春」掲載)